電池管を使った無線機を使い始めてそろそろ2年ほどになる。ところが、この無線機はCW専用機であるので、真空管を使ったVOICE用無線機も面白いかもしれないと思い始めた。真空管でVOICEとなるとAMが思い浮かぶが、QSOの相手という点ではやはりSSBであろう。
SSBトランシーバーは何台も製作したが全て半導体を使用したものである。今回は真空管を使用したSSBトランシーバーを製作してみたい。真空管でSSBトランシーバーを構成するとなると十数本の真空管を並べる必要がある。そうなるとヒーターの発熱だけでも数十Wとなり、ちょっと問題である。
例えば、5球スーパーでもよく使われた高周波増幅管6BA6ではヒーターは6.3V300mAで1,890mW、ところが、電池管の高周波増幅管1T4のフィラメントは1.4V50mAで70mWとなり、実に6BA6の1/27しかない。もちろん、良いことばかりではなく、gmは6BA6の4400μに対して1T4では900μしかなく、増幅回路を構成する場合、6BA6では2段で済むところが、1T4では3段、4段と必要となる。さらに高い周波数の性能が心許ないので、その点にも注意が必要となる。さらに直熱管でカソードがないため、カソード抵抗だけで簡単にバイアスをかけるといわけにもいかない。
でも、電池管を十数本並べても、フィラメント(ヒーター)電力は6BA6の1本にも満たないとなれば、それなりのメリットは十分にある。さすがに電力段まで電池管となると選択肢が限られるが、できる限り電池管を使ったSSB無線機を製作してみたい。
そんなわけで、アメリカの真空管屋から電池管を通販した。24本購入して航空便送料込みで83ドルであった。
1T4はリモートカットオフの高周波増幅、1L4はシャープカットオフの高周波増幅、1U5は検波・低周波増幅、3A4・3Q4は
電力増幅、1R5はコンバーターである。
例によってジャンク箱でSSB機に使えそうなパーツを探したら、CB無線機用に大量生産された11.2735MHzのSSB用クリスタルフィルターが見つかった。キャリア用の水晶発振子もあったので、これを使うことにする。電池管の実力からすると本当は数MHz台のものが望ましいが、とりあえず、これで我慢しよう。
先ず、11.2735MHzIFのエキサイターを製作してみる。コンバーター部はその出来具合で考えることにする。もしかするとこの段階だけでポツになる可能性も十分にある。
マイクアンプは1L4として入出力部にマッチング用トランスを配置した構成にした。このマッチング用トランスも20年ほど前にPA用アンプから取り外したものである。600:60kオームなので真空管で使用するには好都合である。
マイクはインピーダンス数百オームのダイナミック型を想定している。
1L4の前後を600:60kオームのトランスで固めた、入出力インピーダンス600オームのアンプを作り、特性を計測してみた。電圧比で約13倍となったが、これではダイナミック・マイクの数mVを増幅するのには不足である。1L4を3結にして追加して2段増幅としたら電圧比で約300倍となり、これなら大丈夫そうである。
マイクアンプの目処がついたので、キャリア発振とバラモジの実験にとりかかった。キャリア発振は手軽さに負けてトランジスターにしてしまった。信号ラインはなるべく電池管にして、その他は半導体という方針である。バラモジもそんなわけでダイオードを使った自作DBMとした。実験用シャーシーにこれらを配置してSGから1kHzをマイクアンプに入力してDBM出力をオシロで観測した。波形自体はDSBとなっているが、レベルがデコボコしている。1kHzを直接、DBMに入力するとそこそこ、きれいなDSB波形となっている。バラックで組みたてたマイクアンプの問題もありそうである。
ここまでは自作DBMを使用したが、メーカー製のDBMに載せ替えてみるとやはりこちらの方がきれいな波形である。あっさりと宗旨替えしてメーカー製で行くことにした。
しかし、マイクアンプを通すと相変わらず、レベルがデコボコしている。マイクアンプの出力側は3結にした1L4の抵抗負荷をカップリング・コンデーサーで取り出し、60k:600オームのトランスを使ってインピーダンスを変換している。どうやら、このあたりに問題がありとにらんで、抵抗負荷をトランスに置き換えることにした。インピーダンス変換している60k:600オームのトランスは直流を流せないので、例によってジャンク箱を漁り、100V:9Vの小型パワートランスを見つけた。もちろん、これも交流用であり、直流を重畳する用途ではないが、ダメ元で試してみた。これが正解でちょっとデコボコはあるが何とか使えそうである。
DBMの出力を1:3のトランスでステップアップしてクリスタルフィルターを通した。これでSSB(USB)が出来たことになる。クリスタルフィルターの出力側を200オームの抵抗で終端して、6m QRP SSB Tranceiverのクリスタルフィルターに数pFを介して接続した。6m QRP SSB Tranceiveも同じクリスタルフィルターを使っているので、これでバラックセットのマイクからの入力は6m QRP SSB Tranceiveから音声として出力されることになる。
この段階でも自作とメーカー製のDBMを聞き比べてみたが、やはりメーカー製のDBMの方が歪み感がなくて良好であった。
予備実験2まででとりあえず、SSBが出てきた。クリスタルフィルターの出力を200オームで終端してオシロで計測するとP-Pで約100mVといったところである。これを増幅するわけであるが、DSBのままで増幅して クリスタルフィルターを通した方が良いのか、早い段階でSSBにして増幅した方が良いのか不明である。トランシーバーの場合、1個のクリスタルフィルターを送受信で兼用するので、レベル配分や配置の関係からある程度DSBのまま増幅するようである。今回は同じクリスタルフィルターがもう1個あり、送受信別々とするので、DBMのすぐ後ろにクリスタルフィルターを挿入してSSBとしてそれを増幅する。 真空管は1T4を使い、入力側はとりあえず1:3のトランスでステップアップして2kオームでターミネートした。出力側は24:3のトランスを作り、2次側を50オームでターミネートして出力を計測したところ、P-Pで約100mVとなり、PGは6dBとなった。入出力用トランスのステップアップ比をもう少し上げる必要があるが、1段増幅ではせいぜい10dBであろう。SSBエキサイターとしての出力は10dBm以上欲しいので、やはりもう1段必要である。
出力側の同調回路、1次側はトロイダルコアに24ターン巻いて50pFで11MHzに同調させてある。2次側はとりあえず3ターンとしてある。2次側を50オームで終端すると1次側は3.2kオームとなり、1T4にとってはかなり重い負荷になる。
筆者はスペアナは持っていないが、パソコンを使用したFFTによるスペクトラム観測システムがあるので、これを利用してここまでの予備実験を検証してみる。
<写真1>
バラックセットの1T4の出力(USB)を測定した。AFSGから2kHzをマイク端子に入力したスペクトラムである。1T4の出力は-数dBm程度である。1kHzではどこで発生するのか不明だが、高調波がうるさいので、2kHzを入力している。キャリアサプレッションはぎりぎり-40dBというところである。バラックセットでは配置が良くなく入出力で結合していると思われるので、もう少し改善されるかもしれない。
<写真2>
マイク端子に2トーンを入力したスペクトラムである。3次IMDはなんとか-40dBといったところである。この場合のキャリアサプレッションは写真1より悪化してやっと-30dBというところである。
マイクアンプは1L4-1L4(3結)の構成であるが、予備実験では2球とも0バイアスとした。念のため、1L4(3結)のプレート電流を計測したところ、AF入力を増やすとプレート電流が減少することが判った。AF入力なしでのプレート電流は4mAであったが、AF入力を増やすと1mA程度まで減少する。1L4(3結)のバイアスが浅すぎてAF入力の増加に伴い、A級動作から外れてしまったようである。
バイアスをかける方法であるが、傍熱管ではカソードに適当な抵抗を挿入すればOKであるが、電池管にはカソードがないので、一工夫が必要である。昔の電池管を使用した軍用無線機では、乾電池を使ってグリッドにマイナス電圧を印加していたものもあった。A級ではグリッド電流を流さないので、乾電池でもかなり持つので合理的な方法である。現在であればボタン型の電池を使うと手もある。
もう一つの方法は、電池管のフィラメント電圧をアースに対して、バイアス分だけ持ち上げるやり方である。今回はこの方法で実験した。左図の回路ではスイッチング・ダイオードの順方向の電圧降下0.7Vを利用している。対アース電圧は3本を直列に接続して0.7*3=2.1Vを得ており、1L4(3結)へのフィラメントへはバラックセットのDC電源7.7Vからダイオードを6本、直列接続して0.7*6=4.2Vを降下させ、3.5Vを印加している。フィラメントの両端の電圧は3.5V-2.1V=1.4Vとなる。約2Vのバイアスをかけるとプレート電流は入力のあるなしでも2mA一定になり、A級動作となった。
実はもう少しスマートな方法がある。左図では1L4と1L4(3結)のフィラメントをシリーズに接続してある。1L4(3結)のプレート電流2mAは1kオームの抵抗を通してアースに流してあるので、前段の1L4のフィラメントへは定格の1.4V50mAが供給される。こちらの方が電圧降下による余計な電力消費が少なくなる。
前者の電圧降下による電力消費は319mWであるが、こちらでは247mWと改善される。それにしても1L4のフィラメント電力、1.4V*50mA=70mWに対して、バイアスをかけることによる余計な電力消費の方が数倍も大きくなる。
「予備実験その3」では1T4によるRFアンプを実験した。このアンプの出力側はトロイダルコアに24ターン巻き、2次側はとりあえず3ターンとしたが、これを検討してみる。マイクアンプにシングル・トーンを入力して、それを一定に保ち、2次側の巻数を変えた場合の出力を計測した。2次巻線を50オームで終端して、その両端の電圧をオシロで観測した。
巻数 | 出力電圧(P-P) |
3turn | 0.6V |
2turn | 1.2V |
1turn | 2.5V |
バラックセットで数mWが得られたので、その出力を、6m QRP SSB Tranceiverのトランスバーター部へ接続した。これにより50MHzで100mW程度まで増幅することができたので、出力をダミーロードに喰わせて、別の受信機でモニターしてみた。AFSGからシングルトーンを入力した場合、残留キャリアが感じられたが、キャリア・サプレッションはそれなりに取れている。しかし、AMラジオのスピーカーの音をマイクで拾ったものをモニターすると問題ありである。残留キャリアと音声信号のレベル差が少なく、きれいなSSBではない。
マイク入力を5mVとしてアンプの増幅度を100から200倍程度として設計したが、それでは不足のようである。さらに、DBMへはローインピーダンスで接続する必要があるが、1L4の3結では役不足でドライブしきれない。いろいろと試行錯誤したが、1L4-3Q4の組み合わせとして3Q4の出力トランス2次側8オームでDBMをドライブするとかなり改善された。
3Q4の出力を50オームでターミネートした場合、1mV入力で270mV出力となった。ただし、オシロで波形を観測するとユラユラと揺れている。トラブルシューティングの結果であるが、フィラメント用のDC電源のケミコン容量が不足していたので、2000uFを追加したら、解消された。本番ではB電源にもリップル・フィルターを入れる予定なので、もう少し良くなると思われる。
SSBエキサイターの目処がついてきたので、リニアアンプの実験にとりかった。ここまで、どのバンドの無線機を作るか決めていなかった。オールバンド無線機を作るほどのスキルは持ち合わせていないので、必然的にシングルバンドとなる。出力も5Wの予定なので、QRPのVOICEでもラグチューが出来そうな50MHzをターゲットにする。電池管を使った送信系統は7MHzまでの実績しかないので、予備実験が必要となる。
1T4-3Q4の2段アンプをバラックで作り、どのくらいパワー・ゲインが得られるか計測した。入力1mWで出力100mWとなったので、1段あたり10dBである。出力5Wが37dBmとなるので、3段ではちょっときつそうである。
もう一つの問題がある。2段アンプなので同調回路が3箇所あるが、回路がハイ・インピーダンスになっていて、同調がかなりシャープである。そのため、50.0〜50.4MHz程度のバンド幅で使おうとすると、パネル前面から同調できるようにしなければいけないかもしれない。
同調回路は入出用はトロイダル・コアに巻き、段間用はFCZ50を使った。電池管の入出力
キャパシタンスがかなりあり、段間用のFCZ50は指定の15pFでは大きすぎたので10pFとした。
ようやく終段の実験である。前述したように5Wを得ようとすると電池管では適当な球がないので、2E26か6146で実験しようと思ったが現在、これらの球は手元に置いてない。仕方ないので、電池管を使った無線機その2から6BQ5を引き抜いた。6BQ5は例によってA級動作である。プレート電圧、SG電圧250V、バイアス-7Vで出力5Wの動作例がある。バラックで組みたてて試験した。入力100mWで出力2.5WとなりPG14dBとなった。ダミーロードを外した状態で、出力バリコンを廻しても異常発振するようなことはなかった。オシロで見た波形も特に問題なかった。
入力用の同調回路はT50-12のトロイダル・コアにエナメル線を16ターン巻き、その上に3ターン巻いた。3ターン側を1次、16ターン側を2次としたので、インピーダンス比は1:28となり、1次側を50オームとすると2次側は1400オームにステップ・アップされる。手持ちの抵抗の関係から6BQ5のグリッド抵抗として1kオームを挿入した。
出力側の同調回路もT50-12のトロイダル・コアを使ったトランスである。こちらは1次側14ターン、2次側2ターンとしたので、インピーダンス比は49:1となる。2次側を50オームでターミネートすると1次側は2.5kオームとなる。
通電試験をすると出力が徐々に低下するのが判った。出力側コアに触るとほんのりと暖かい。やはりコアサイズが小さいようである。念のため、T50-12を2つ重ねたもので試験した。こちらの方が安定している。当然、巻き数も8ターンに減らしてある。
エキサイター各部の実験が終了したので、全体構成について検討する。最終的にはトランシーバーとしてまとめいたので、キャリア発振、ローカル発振は受信部から供給するスタイルにする。ただし、CWのキャリア発振回路は送信部に組み込む予定である。筆者は半導体で製作する場合、キーイングはドライバー段の電源をON-OFFする方法を使うが、本機の場合、一工夫が必要である。マイナス電源を用意してバイアスでキーイングするか、6BQ5のカソードでキーイングすることが考えられる。リニア・アンプ部は一応、4段構成にするがゲインに余裕があれば3段にする。リニアアンプ部の同調回路であるが、終段、ドライバー段はパネル前面からバリコンを調整できるようにする。プリドライブ段はBPF構造にする予定である。
ケースは電池管を使用した無線機と同じ構造にする。
アルミ・シャシーとアルミ・パネルを組み合わせてラックタイプのケース(W300mm*H200mm*D200mm)を作り、上段に送信部、下段に受信部としてトランシーバーにまとめたい。今回はその上段に挿入できる送信ユニットを作った。シャーシー(W250mm*H40mm*D200mm)にパネル(W300mm*H100mm)をたてたものであるが、市販シャーシーでW250mmのものがないので、W300mmのシャーシーを切断して250mmにした。
本番の組み立てを始めた。マイクアンプを配線したので、周波数特性を計測してみた。バラックセットの時から判っていたが、500Hz以下で利得が急激に低下する。このままでは低音不足になってしまう。3Q4の入力では問題がないので、出力トランスが怪しそうである。このトランスはユニバーサル・タイプなので、3Q4のスクリーン・グリッドへの給電を途中タップから行い、ULにしたらかなり改善された。周波数特性はDBMをドライブするので8オームではなく、50オームで計測した。
マイクアンプ、DBM、フィルター、IFアンプまでを配線してある。
IFまでとりあえず動作したので、ターゲットとなる50MHzへ持ち上げることにする。ミキサーはDBMを使用した。真空管の場合、インピーダンスが高いので、DBMの50オームに変換する必要がある。IF側は1T4の出力トランスの2次側に2ターン巻いて取り出してあるが、最適化されている訳ではない。1ターンだと心許ないので、2ターンとしただけである。キャリアは外部から50オームで供給する予定なので、3dBパッドを挿入した。RF側はFCZのコイルを使用した50MHzのBPFを経由してリニア1段目の1T4へ接続した。FCZコイルのインピーダンス比は1:9なので、ちょっと50オームからずれるが2次側を1kオームでターミネートしてある。DBMのRFポートへ3dBパッドを挿入してBPF出力側をターミネートしないで使う方法もある。このあたりは最終的に調整する予定である。
リニア1段目の1T4のプレート側もFCZコイルを使用したBPFを挿入してある。予定では1T4の2段アンプの後に3A4のドライバーという構成であるが、1T4の1段アンプにすぐ3A4を接続してみた。この状態で3A4の出力として20mWが得られた。DBMミキサーLOポートへの入力が1mWもないので、かなりロスしているが、これでは終段の6BQ5をドライブして目標とする5Wを得るのはかなり厳しい。
当初の予定どおり、1T4をもう1段、挿入したら、3A4の出力として100mW超が得られた。DBMミキサーLOポートへの入力電力とか、ロス改善の余地があるので、最終的にはもう少しドライバー出力は増加すると思われる。予備実験では終段の6BQ5へ入力100mWで2.5Wが得られているので、5Wは厳しいかもしれないが、3〜4W程度は行けそうである。
電池管6球でようやく100mWとなった。左手前からマイク・トランス、1L4(MIC)、3Q4(MIC_POWER)、その右列手前から3A4(DRIVER)、1T4(PRI_DRIVER)、1T4(PRI)、SSBフィルター、その右列手前から1.4Vレギュレータ、1T4(IF_AMP)、右端手前から12Vトランス、100V/6.3Vトランス、右端奥に6BQ5用トランスが載る予定。
終段の6BQ5を配置して送信部としての調整を実施した。出力は現状では1W強というところである。目論見では3W程度、得られるはずであったが、やはり一筋縄ではいかない。自己発振等のトラブル・シューティングで送信MIXのDBM周りに3dBパットを追加したり、6BQ5のグリッドリーク抵抗を抵抗値の少ないものに変更したら、当然のことであるが出力が減少したわけである。現状でもマイクゲインを完全に絞った状態で、アンテナ出力端子にオシロを接続して波形を観測すると不規則なノイズが観測できる。
その状態を受信機でチェックするとかすかなモーターボーディング音が聞こえてくる。トランジスターと違って真空管回路ではハイ・インピーダンスとなり、回り込み等が発生しやすいのであろう。
これからであるが、当初の目的である数Wを目指すとドライブ・ゲインが数dB、不足していることになる。試しに送信MIXのDBMの換わりに1段目の1T4をコンバータ管1R5にしてみたが、出力は1W弱に低下してしまった。ゲインとしてはDBM+1T4>1R5のようである。さすがに1R5を50MHzで使おうとすると無理があるようである。正攻法で行くとなるともう1段必要となるが思案のしどころである。
電池管6球+6BQ5でようやく1W強となった。リニア・アンプ1段あたり10dBとすると送信MIXの出力は-数dBということになる。
出力が目論見より少ない件は、とりあえず後回しにしてCWキャリア発振回路を組み込んだ。CWは付け足しみたいな感じなので、手抜きしてトランジスター1本で済ませた。送信DBMのポートにリレーを置き、SSBラインと切り替えることにする。レベルは結合コンデンサーの容量で調整する。この状態では2W弱の出力が得られた。
ところが調整中に急にパワーが出なくなってしまった。キャリア・レベル調整用のコンデンサーを外して直結にすると200mWまで回復したが、それ以上はどうしても増えない。結論から言うと3A4のフィラメントが断線し、SGの配線が外れていた。想像だが、調整中に3A4の1番ピンをアースさせてしまい、フィラメントに10V程度が印加されて断線した模様である。SGの配線はあちこちいじっている間に折れて外れたのであろう。3A4自体が動作していなくてもグリッド・プレート間のキャパシタンスで入出力が結合して200mWだけ出力が得られたわけである。
3A4を入れ替え、配線等を手直ししたら、2W強の出力が得られた。以前の球は少しボケ気味だったようである。
送信出力として2W強が得られたので、電池管トランシーバーの送信部としてまとめることにする。SSB発生用のキャリア信号と送信MIXのローカル信号は受信部から供給する予定である。現状ではキャリア信号はSGもどきから、ローカル信号はIF周波数が同じQRPトランシーバーから仮設的に供給している。
そんなわけで本機に必要なコントロールは送受信PTT、SSB-CWモード切替、CWセミブレークインとなり、受信部には送受切替信号、サイドトーン制御用信号を送るようにする。
CWキーイングは終段6BQ5のカソードで行っている。6BQ5はA級動作させているが、そのカソードバイアスは定電圧回路となっており、ドライバー管の3A4と共用している。また。受信時には6BQ5のカソード抵抗は15kオームとなるのでカットオフ近くまでのバイアスがかりプレート電流を抑制する。
同調指示は出力をダイオードで整流してLEDを点灯する方法とした。モードをCWとして、LEDが最も輝くように、ドライブ段と終段のバリコンを調整すると出力計も最大指示を示した。その状態でモードをSSBにして、マイクに向かって喋るとそれに応じて光るので、SSB出力監視にも使えることになる。
本機は終段のタンク回路で50オームにインピーダンス変換しているので、50オームで設計された定k型のフィルターを接続した。
真空管を使っているので、トランジスター装置のように12Vの電源1種類だけというわけにはいかない。電池管用としてフイラメント1.4V、B電源は120V、90V、65Vの4種類、6BQ5用として250V、6.3Vの2種類、制御用として12Vと計7種類の電圧が必要である。90V、65V、12V、1.4Vは安定化してある。このために3個のトランスを使用した。
50.25MHzの水晶と2SK125で発振回路を作り、パソコンを使用したFFTによるスペクトラム観測システムの局発にして、送信部50MHz出力を測定した。
<写真3>
CW2.5W出力を測定したものである。サイドが結構、広がっている。この波形ではリニアを接続しようなんて思わない方が良さそうである。
<写真4>
マイク端子に2トーンを入力し、出力を1Wに調整したスペクトラムである。3次IMDはようやく-30dBというところである。キャリアサプレッションは-40dB強で、あまり芳しくない。クリスタル・フィルターのパスバンド内でノイズ・フロアー・レベルも盛り上がっている。しかし、マイク・ゲインを絞るとノイズ・フロアー・レベルは下がるので、マイクアンプのS/Nに問題がありそうである。
ダミーロードを接続して別の受信機でモニターしてみた。SSBは音がちょっと堅い感じがする。しかし、CWではキーアップ時にも出力が出てしまうことがわかった。オシロで計測したところ、約10mWであった。これはキーイングを終段6BQ5のカソードで行っているが、キーアップ時のカソード抵抗が15kオームでは完全にカットオフ出来ていないと思われる。しかし、これ以上大きくするとキーアップ時のカソード電圧も高くなり、キーヤーの制御用トランジスターVCEOをオーバーする可能性がある。ちなみに15kオームでのカソード電圧は約20Vであり、特性表によるとかなりカットオフに近いようである。また、6BQ5グリッド・プレート間のキャパンタンスでドライバー段の電力が漏れている可能性もある。ドライバー段の3A4もキーイングすれば改善されるが、悲しいかな直熱管のためカソードがない。B電源をキーイングする方法もあるが、キーダウン時に約2.5W、それに対してキーアップ時は10mWであり、-24dBとれているので、このままとしよう。
6mQRPトランシーバーの受信部と組み合わせてトランシーバーとして使えるようにする。キャリアはDDSから注入し、ローカルは6mQRPトランシーバーから取り出した。6mQRPトランシーバーのプリ・ドライブ段で次段への結合用コンデンサーを外し、本機が送信状態になった時は6mQRPトランシーバーも送信状態になるように制御ラインを接続した。これで6mQRPトランシーバーの受信部+本機という構成のトランシーバーとなった。
全て電池管というわけにはいかなかったが、送信部はとりあえず、完成した。当初の目標は電池管トランシーバーであるので、受信部をどうするかが問題となる。本機に使用したものと同じクリスタルフィルターの手持ちがあるので、別の筐体で受信部を作ることは可能である。多分、11MHz帯IFであれば1T4で何とかなりそうである。その場合、3段ではなくやはり4段程度必要と思われる。
フロント・エンドは電池管ではきつそうである。軍用無線機では1L4でRF2段、コンバーターに1R5を使用した例もあるが、折衷案でそこそこ性能が期待できるIF、AFを電池管で製作し、RF、MIXは普通の真空管を使うか、半導体で製作しても良いかもしれない。
パネル左下から右へMIC、MIC GAIN、CW KEY、DRIVE TUNE、POWER LED、POWER SW、左上からLO IN(下)、RX ANT(上)、MODE SW、FINAL TUNE、TUNE LED、ANT
左サイドは電源トランス類、その左列下から1T4(IF)、その上が6BQ5とタンク回路、その右列下から1T4(PRI_DRV)、1T4(PRI_DRV)、3A4(DRV)、
右サイド下から、コントロール回路、3Q4(MIC_POW)、1L4(MIC_PRI)、マイクトランス
左サイドがマイクアンプ、左下はマイクアンプ出力トランス、その右列がリニア部、背面側がバラモジ、クリスタル・フィルター、IF、中央がコンバータ部、CWキャリア、右サイドは電源部
最近はQRP運用のみであるが、6m 811A GG Linear AMPを接続してスペクトラムを観測してみた。このアンプは十数年前に製作した入力2W、出力35WのGGアンプであるが、まともに増幅しない。トラブルシューティングの結果は入力部バリコンの接触不良であった。最近、10年ほど使っていなかったが、やはりリグは普段使っていないとダメなようである。
<写真5>
CW25W出力を測定したものである。単体の時よりもサイドの広がりが抑えられている。すぐそばに大きなスプリアスがあるが、別の受信機で実際の信号をモニターすると、確認できないので、測定系で発生したもののようである。この波形であれば、リニアを接続しても問題なさそうである。
<写真6>
マイク端子に2トーンを入力し、出力を20Wに調整したスペクトラムである。3次IMDは単体の時よりも改善されて-40dBとれているが、クリスタル・フィルターのパスバンド内でノイズ・フロアー・レベルは若干、悪化している。単体の時と同じ条件で測定できてはいないが、リニア自体の性能はそんなに悪くないと思われる。
受信部の製作は 電池管SSBトランシーバーの製作その2へ続く