IRF510 PP リニア・アンプの製作
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はじめに

50W FET・リニア・アンプの実験で使用したIRF510 PPのアンプ基板を使い、7MHz〜28MHzまでをカバーするリニア・アンプを製作してみる。筆者はリニア・アンプには電源を内蔵する主義であるが、今回はリニア・アンプ用電源を事前に製作しているので、電源は別置きとする。
このアンプは汎用トランシーバーと組み合わせて50W出力を得ることを目的としている。 主要部分の実験は完了しているので、LPF、コントロール回路を組み合わせてケースに入れれば出来上がりとなる。

コントロール回路、LPF

コントロール回路としては送受信切り換え、バイアス路等であるが、回路用電源はメインの30V-40VからFETを使用したドロッパー兼安定化回路により12Vを供給する。バイアス用にはさらに5Vレギュレーターを挿入してある。ドロッパーは最大で20V*0.2A=4.0W程度を消費するのでFETはしっかりと放熱する必要がある。
出力監視用にLEDを使ったモニターも設けてある。

写真左がドロッパーと5Vレギュレーターである。ドロッパー用のヒートシンクは、手持ちジャンク品の活用である。
写真右は送受信切り換え回路とバイアスVRであるがアンテナ切り換え用リレーも同居させている。

LPFは10MHz、21MHz、28MHzの3組をリレーで切り替えることにする。コアはT50タイプに巻き、ディップド・マイカと組み合わせてある。
銅箔をルーターで削り取ってパターンを作っているので、エッチングが不要である

ケース

今回、ケースはタカチYM250(W250mmxH50mmxD170mm)を使った。当初、アルミ・シャーシーと裁断済みパネルを使う予定でいたが、タカチYM250の方が安かったので、方針転換となった。塗装もされているので、穴開けするだけでOKである。

組み込み

コントロール類は左から電源スイッチ、電源LED、LPF切り換え、出力モニターLED、入力、出力といたってシンプルである。
冷却ファンにはファン・ガードを取り付けてある。

内部は左からLPF基板、送受切り換え基板、IRF510 PP アンプ基板である。
背面左はドロッパー・5Vレギュレーター基板で、その右にスタンバイ端子、ヒューズとなっている。

トラブル・シューティング

当然のことであるが、段階を追ってチェックしながら組み込んでいる。アンプ基板、LPF基板、ドロッパー回路を組み込んだ後、各バンドで数十Wの出力が得られることを確認した。
翌日、詳細なデータを採ろうと思い、前日のセットアップのままで電源を入れたが、 どういうわけかパワーが出ない。そうこうしている内に「ボンッ」という音と伴に、プラスチックの焦げるにおいが充満した。すぐに電源を切り、内部を点検したら、片方のIFR510のパッケージが破裂して内部の電極が露出していた。
他のパーツは特に問題がなかったので、とりあえず、両方のIFR510を交換した。基板単体で試験済みだったので、高をくくって破裂時には電源ラインに電流計を接続していなかった。今回は電流計を接続して再試験したが、やはりパワーが出ない。電流計は正常時、3A程度のところが5Aも流れている。あわてて電源スイッチを切ろうと思っている内に「ボンッ」の音である。やはり片方のIFR510のパッケージが破裂してしまった。
正常時の倍近い電流が流れているのにパワーが出ないということは、無負荷の状態になっている可能性がある。再度、IFR510を交換し、LPF、アンテナ切り換えリレーをバイパスして試験したら、今度は問題なくパワーが出た。

さすがに、ここまで来ると原因に思い当たった。実はFETドロッパーの出力電圧が10V弱しかないことは承知していたが、そのまま12V仕様のLPF切り換えリレーやアンテナ切り換えリレーに供給していたのである。
ファンも12V仕様であるが、10V程度で十分、冷却できており、騒音も低いので、かえって10Vの方が都合が良かったのではあるが゙・・・。
10V弱が、これらのリレーの動作電圧ぎりぎりでONしないケースがあったようである。

FETドロッパーのゲートに挿入してあるツェナー・ダイオードをLEDでかさ上げして、出力電圧を12V弱にアップしたところ、安定的にパワーが出るようになった。
しかし、例えば、21MHz運用時に間違えてLPFを10MHzにセットしたりすると無負荷状態になりFETを飛ばす恐れがある。アンテナが接続されていなかったり、同調が取れていない場合も同様である。電源ラインの過電流を検知して電源をOFFする回路が欲しいが・・・将来の課題かな。

測定データ

FET・リニア・アンプ用電源と組み合わせた測定データである。電源はトランス1個のみでAC24Vをブリッジ整流している。
入力電力はバンドにより違いがあるが、概ね5Wである。ただし、28MHzは4Wである。アイドリング電流はIRF510 2個トータルで200mAに設定し、外付けの30MHzLPFも接続してある。

                 
周波数 ドレイン電圧ドレイン電流 出力電力効率 入力SWR
7MHz 26.6V 3.4A 52.0W57.5% 1.4
10MHz 27.3V 3.2A 52.0W59.5% 1.4
14MHz 28.8V 2.4A 43.0W 62.2% 1.1
18MHz 28.3V 2.5A 38.0W 53.7% 1.1
21MHz 27.6V 3.0A 40.0W 48.3% 1.1
24MHz 28.8V 2.3A 40.0W 60.4% 1.1
28MHz 29.2V 2.2A 24.0W 37.4% 1.1

下表は電源トランス2個でAC24+AC6V=AC30Vをブリッジ整流した場合のデータである。
21MHzで50Wとなったが、28MHzはようやく30W弱である。
電源電圧が高いとドレイン損失も大きくなり、また、無負荷になったときのダメージも大きくなるので、通常時は電源トランス1個でAC24Vとして使うこととする。

                 
周波数 ドレイン電圧ドレイン電流 出力電力効率 入力SWR
7MHz 32.1V 4.1A 70.0W53.2% 1.4
10MHz 31.8V 4.2A 70.0W52.4% 1.4
14MHz 36.5V 2.9A 70.0W 66.1% 1.1
18MHz 34.8V 2.9A 45.0W 44.6% 1.1
21MHz 33.7V 3.6A 50.0W 41.2% 1.1
24MHz 35.7V 2.6A 45.0W 48.5% 1.1
28MHz 36.2V 2.2A 28.0W 35.2% 1.1

FFTによる波形観測

FFTによるスペクトラム観測でCWとSSBの波形を計測してみた。

汎用トランシーバーの7MHz_CW_5Wのスペクトラムである。余計な近接スプリアスもなくきれいである。

汎用トランシーバーに本機リニアを接続した7MHz_CW_50Wのスペクトラムである。メイン波形のすぐそばのスプリアスは、2SK3563を使用した50W FET・リニア・アンプ811A Linear AMPと比較しても遜色ないと思われるが、画像左側のスプリアスが気になる。

汎用トランシーバーの7MHz_SSB_3Wのスペクトラムである。3次IMDは30dB程度である。

汎用トランシーバーに本機リニアを接続した7MHz_SSB_30Wのスペクトラムである。3次IMDは20dB強にまで劣化している。やはり、SSB波形では真空管を使用した811A Linear AMPが秀逸である。

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Last Updated 12/Dec/2009 by mac