HF・ハイ・バンドには811A Linear AMPを使っているが、バンド・チェンジする毎に再チューンするのが面倒である。HFハイ・バンドに使えるFET・リニア・アンプの実験をしてみることにした。
HF・ハイ・バンドということでFETはIRF510を使ってみたいが、少量でも買える適当なサイトがヒットしない。仕方ないので、50W FET・リニア・アンプにも使った2SK3563で実験を開始した。
このFETは以前にも実験していたが、その時は10MHzまでしかデータを採っていなかったので、シングル・エンドで再実験してみた。コーナー周波数を高くするために入力側はインピーダンス比9:1のトランスを配置し、5オームの抵抗でターミネートし、出力側はインピーダンス比1:4のトランスとした。
この実験データではHF・ハイ・バンドでは無理そうである。9:1でインピーダンス変換して5オームの抵抗でターミネートしたわりには入力SWRも3.0以上と高い。
周波数 | ドレイン電圧 | ドレイン電流 | 出力電力 | 効率 |
7MHz | 32.0V | 0.8A | 12.0W | 46.9% |
10MHz | 32.0V | 0.5A | 6.5W | 40.1% |
14MHz | 32.0V | 0.5A | 4.8W | 30.0% |
18MHz | 32.0V | 0.65A | 4.0W | 19.2% | 21MHz | 32.0V | 0.8A | 4.2W | 16.4% |
試しに5オームの抵抗を外してデータを採ってみると入力SWRは2.0以下に落ち、しかも出力が20Wもある。それが下記のデータである。どうやら先が見えてきた。
周波数 | ドレイン電圧 | ドレイン電流 | 出力電力 | 効率 |
7MHz | 30.0V | 1.4A | 18.0W | 42.9% |
14MHz | 30.0V | 1.8A | 16.0W | 29.6% |
18MHz | 30.0V | 1.7A | 18.0W | 35.3% | 21MHz | 30.0V | 1.8A | 20.0W | 37.0% |
手持ち部品で2SK3563PPアンプを作ることにした。出力側は1:4でインピーダンス変換してからフロートバランを通す定番の構成である。入力側はメガネコアを使い、2次側は1ターンで中点を交流的にアースし、そこへバイアス電圧を印加している。
1次側は当初、2ターンであったが、1ターンの方が入力SWRがほぼ1.0まで落ちたので、それでデータを採った。
ちなみに2ターンの時のSWRは2.0であったが、これは入力側に挿入してある3dBアッテネーターによるものである。
周波数 | ドレイン電圧 | ドレイン電流 | 出力電力 | 効率 | 入力SWR |
7MHz | 28.3V | 2.6A | 40.0W | 54.4% | 1.1 |
10MHz | 29.0V | 2.2A | 40.0W | 62.7% | 1.0 |
14MHz | 30.0V | 2.3A | 30.0W | 43.5% | 1.1 | 18MHz | 29.0V | 1.9A | 24.0W | 43.6% | 1.2 | 21MHz | 30.0V | 1.6A | 18.0W | 37.0% | 1.2 |
結果をみると21MHzでもなんとか使えそうであるが、18Wでは物足りない、できれば40Wは欲しいところである。
18MHz20W(写真 左)と21MHz15W(写真 右)のCW波形である。21MHzではオシロの輝線が少しぼやけていたので、もしかすると余計な振動があるのかもしれない。これらの信号は30MHzLPFを通してある。
実験用電源は24V3Aのトランスを整流してコンデンサーを挿入しただけの簡単なものである。実験が進むにつれてシートシンクを冷却する必要があり、12VのPC用ファンを装着した。
2SK3563PPアンプは入力に3dB ATTが挿入してあるので、それを外してみたり、供給電圧を変えてデータを採ってみた。
実験用電源
そのため、30Vから降圧して10V程度を得る、FETを使った簡単な安定化電源回路をバラックで追加した。ファンには100mAが流れるので、このFETの損失は2W程度となるので、アルミパネルの切れ端で放熱してある。FETはPDが25W以上あるものであれば何でもOKである。当初、バイアス用電源は9V乾電池使っていたが、こちらもこの安定化電源回路から得ることにした。
その後、24V3Aのトランスを購入した。写真右が新たに購入したトランスで、写真左の手持ちトランスと全く同じトヨズミのHT-243である。手持ち品は少なくとも20年以上前から所有していたと思われるが、20年後にも同型式のトランスが入手できるとは思わなかった。この種のトランスは技術的にも枯れたものであるようである。
1次側の100Vは並列にし、2次側を直列にして使うが、2次側にはいろいろな電圧タップがあるので、これらを組み合わせるといろいろな電圧を得ることができる。
同型式であるので、1次側は0Vと0V、100Vと100Vを並列接続し、2次側は古い方のトランスの24Vと新しい方のトランスの0Vを直列に接続した。しかし、予期したAC48Vが得られない。1次側の接続を入れ替えたら、ようやくAC48Vが出てきた。同型式でも20年の差があると電圧表示と相が一致していなかったようである。
2SK3563PPその2
最終的にはATTを挿入し、トランスはAC24V+AC12V=AC36Vの接続とすることとした。実験中にはDC50V以上の電圧を印加してみた。アイドル電流を増やすと21MHzで45W程度を得たが、ドレイン損失ぎりぎりで2回ほどFETを飛ばしてしまった。
この結果からは18MHzまではかなり良い線であるが、21MHzではかなり微妙である。
周波数 | ドレイン電圧 | ドレイン電流 | 出力電力 | 効率 | 入力SWR |
7MHz | 41.5V | 3.1A | 80.0W | 62.2% | 1.1 |
10MHz | 42.4V | 2.8A | 80.0W | 67.4% | 1.1 |
14MHz | 42.0V | 2.9A | 55.0W | 45.2% | 1.1 |
18MHz | 43.7V | 2.4A | 45.0W | 42.9% | 1.1 |
21MHz | 45.0V | 2.1A | 35.0W | 37.0% | 1.1 |
24MHz | 46.7V | 1.5A | 24.0W | 34.0% | 1.3 | 28MHz | 47.0V | 1.3A | 20.0W | 33.0% | 1.3 |
国内の販社 株式会社チップワンストップからIRF510を購入することができた。この販社でも何種類かのIRF510がリストされていたが、その中から@347円のInternational RectifierのIRF510PBFと@140円のVishay IntertechnologyのIRF510PBFをそれぞれ5本を購入した。
せっかく使うのだからと@347円のInternational RectifierのIRF510PBFを2SK3563と入れ替えてみた。IRF510PBFはフルモールドではなく、フランジがドレインと接続されているので、ヒートシンクに装着する際にはマイカ板で絶縁する必要がある。
とりあえず、AC24V3Aのトランス1個だけでデータを採ってみた。2SK3563ではDC45.0Vをかけて21MHzで35Wだったが、IRF510では28.0Vで同じ35Wが得られている。効率も37.0%に対して54.4%と改善されている。
下表には記載していないが、50MHzでも1.5W入力に対して6Wが得られている。ただし、効率は悪く20%程度であるが、入出力回路を調整すれば効率・出力アップの可能性があるかもしれない。
周波数 | ドレイン電圧 | ドレイン電流 | 出力電力 | 効率 | 入力SWR |
7MHz | 26.8V | 2.7A | 55.0W | 76.0% | 1.5 |
10MHz | 27.1V | 2.5A | 55.0W | 81.2% | 1.4 |
14MHz | 26.6V | 2.7A | 45.0W | 62.7% | 1.2 |
18MHz | 28.0V | 2.3A | 40.0W | 62.1% | 1.2 |
21MHz | 28.0V | 2.3A | 35.0W | 54.4% | 1.2 |
24MHz | 29.6V | 1.7A | 30.0W | 59.6% | 1.2 | 28MHz | 29.3V | 1.7A | 24.0W | 48.2% | 1.2 |
次は、AC24V3Aのトランスに別のトランスのAC6V3Aを直列に接続し、トータルAC30V3Aとしてデータを採ってみた。この場合、21MHzで45W、28MHzでも30Wが得られた。
AC30Vであれば整流後のコンデンサーの耐圧は50VでOKとなるので部品の調達も容易となる。
周波数 | ドレイン電圧 | ドレイン電流 | 出力電力 | 効率 | 入力SWR |
7MHz | 33.4V | 3.3A | 70.0W | 63.5% | 1.5 |
10MHz | 34.0V | 3.1A | 75.0W | 71.2% | 1.4 |
14MHz | 33.0V | 3.3A | 65.0W | 55.1% | 1.2 |
18MHz | 34.0V | 2.8A | 60.0W | 63.0% | 1.2 |
21MHz | 35.1V | 2.5A | 45.0W | 51.3% | 1.2 |
24MHz | 37.0V | 1.9A | 40.0W | 56.9% | 1.2 | 28MHz | 37.0V | 1.9A | 30.0W | 42.7% | 1.2 |
写真左はIRF510PPの21MHz45W、写真右はIRF510PPの28MHz30Wのシングルトーン波形である。30MHzLPFを通してあるが、そこそこきれいな波形となっている。
IRF510 を使用したリニア・アンプの製作は
IRF510 PP リニア・アンプの製作
でご覧ください。