50W FET・リニア・アンプの製作
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プロローグ

30W トランジスタ・リニア・アンプの実験が一段落したので、実際のリニア・アンプを製作することにした。ローバンド用で目標の出力を50Wとする。普段はQRP5Wで運用し、もう少しパワーが必要な時にスイッチ・オンして使うことを想定している。

2SK3563PP

サトー電気のFETリストからCissが小さく、PDがそこそこあり、しかも安いということで選んでみた。 2SK3563はVDSS 500V、PD 35W、Ciss 550pFであり、1個105円である。
このスイッチングレギュレータ用MOS形FETの2SK3563をプッシュプルで使用する。入力は3dBATT、インピーダンス比4:1のトランス、フロート・バランを経由して2SK3563のゲートに到達する。ゲートのインピーダンスは12.5オームとなるので6オームの抵抗をシリーズにしてスワッピング抵抗としている。Ciss=550pF、それに6オームの抵抗なのでコーナー周波数は48MHzとなる。 出力側は2つのトランスにより、インピーダンス比1:4とステップアップされ50オームとなる。 バイアスはとりあえず単3乾電池を4個シリーズにした6Vから供給している。アイドリング電流は10kオームボリウムで調整する。

仮設ボードにBNCコネクター、ボリウムを配置してある。冷却用ファンはパソコン用を使用している。

測定結果

ブリッジ整流してコンデンサーをかませただけの仮電源を使い特性を測定してみた。電源トランスは5V刻みのタップがあるので、それを切り替えて供給電圧を変化させている。ただし、電源トランスの最大定格が50V1Aのため、50W出力アンプ用としては容量不足である。 それでも7MHzにおいて50Wの出力が得られている。入力電力は7MHzも10MHzも5Wであるが、入力に3dBATTを挿入しているので、PGとしては13dB弱(18倍)となる。アイドリング電流はトータルで0.2Aである。
試しに14MHzでも測定してみたが、使えなくもないといったところであろうか。

7MHz40Wの波形である。(10MHzLPFを通してある。)

          
周波数 ドレイン電圧ドレイン電流 出力電力効率
7.0MHz 33.0V 1.75A 38W 65.8%
7.0MHz 35.8V 2.00A 42W 58.7%
7.0MHz 38.3V 2.10A 45W 55.9%
7.0MHz 40.0V 2.25A 50W 55.1%
          
周波数 ドレイン電圧ドレイン電流 出力電力効率
10.2MHz 37.2V 1.30A 28W 57.9%
10.2MHz 40.6V 1.45A 32W 54.4%
10.2MHz 43.7V 1.55A 36W 53.1%
10.2MHz 46.4V 1.65A 40W 52.2%
          
周波数 ドレイン電圧ドレイン電流 出力電力効率
14.0MHz 39.3V 1.10A 20W 46.3%
14.0MHz 42.8V 1.20A 24W 46.7%
14.0MHz 46.5V 1.35A 27W 43.0%
14.0MHz 49.4V 1.40A 30W 43.4%

まな板セット

仮電源は細長い板にトランス等をビスで止めたものであるが、未利用部分がかなりある。そこへアンプ本体や付属回路を仮配置してアンプ全体としての機能を確認してみた。単球ラジオをまな板で作ったことはあるが、リニア・アンプでは初めてである。LPFやスタンバイ回路も組み込んであるので、このままでも外付けリニアとして機能する。ちなみにまな板の大きさはW50cm*D11cmである。

FFTによるスペクトラム観測

FFTによるスペクトラム観測を実施した。811A Linear AMPと比較するとサイドが広がりイマイチであるが、電源のコンデンサー容量を増加すると改善されるかもしれない。

基本となる7MHz5WのCW波形である。この波形は真空管CWトランシーバー807を使ったCW送信機をリニアにした組み合わせで作った。

上記の5Wを本機2SK3563PPアンプで増幅した7MHz40WのCW波形である。

これは811A Linear AMPで増幅した7MHz40WのCW波形である。上記FETに比べるとサイドの広がりがかなり抑えられている。

ケース

ケースは例によって裁断済みのアルミ・パネルとL型アングルを組み合わせて作った。大きさはW200mm*H150mm*D150mmである。サイドは通風のためパンチング・パネルを使った。 手頃な大きさの市販ケースもあったが、密閉構造だったので、手作りのケースとした。この程度の大きさであると市販ケースの方が見栄えも良いし値段も安い。

とりあえず完成

まな板バラックで試作しているので、本番は何もトラブルなくスムーズに完成と行きたかったのであるが・・・

バイアス回路のボリウムを小型のモノに変更したら、ハンダ付けのミスで5Vがそのままゲートに掛かってしまい、スイッチ・オンした瞬間、過電流でヒューズが飛び、FETもあえなく昇天してしまった。1個105円のFETなので気楽に交換できるが、これが高周波用の数千円もするFETだったらかなり凹むことになる。

試作に使っていた電源用トランスは50V1Aであり容量不足なので、40V2A程度のモノを買う予定でいたが、50V1Aでも50W弱が得られたし、CW専用なのでそのまま使うことにした。 ドレイン電圧が無負荷時65V、フルパワー時には40Vまで低下してしまうので、一応、B級リニアではあるが、SSBには使わない方が無難である。24V2Aのスイッチング電源を2個直列にするとSSBにも使える高品質の電源になると思われる。

アイドリング電流はほんの数十mAに抑えてある。200mAほど流すともう少しパワーが出るが、バイアス回路が安定しているとは言い難いので、安全サイドに調整してあるが、それでも40Wが得られた。電源部からアンプ部へ行く配線途中に0.1オームの抵抗を挿入してあるので、その両端の電圧を測定するとドレイン電流が判る。

コントロールは左下の電源スイッチと右下のTX_ONだけである。コネクターは上が出力、下が入力である。電源スイッチの上にネオン・ランプがある。

背面は左下にスタンバイ入力があるだけである。ファンの電源は右側の3.5mmジャックから取り出す。ファンは8cmのパソコン用である。

中央が50V1Aの電源、その右がファン、リレー用の12Vトランスである。これらのトランスは少なくとも四半世紀以上前から部品箱にあったような気がする。左側には電解コンデンサー、コントロール基板がある。

フロント・パネル裏にはアンテナ切り替えリレーとLPFを配置してある。リレーは50Wを切り替えるということで、パワー用の2Cリレーを使ったが、動作音がかなりうるさい。ちなみに値段は250円。

バック・パネルにはアンプ本体を配置してある。右上にバイアス・コントロールのボリウムがある。

トラブル・シューティング

キーイングするとキーダウンに応じてファンの回転が変わり、ヒュン・ヒュンとうるさい。ファンの電圧を測定するとキーアップ時は約15V、キーダウン時は13Vである。12V系はキーアップ時はファンだけであるが、キーダウン時にはアンテナ切り替えリレーが動作し、負荷電流が増えて電圧が低下している。この電圧変動でファンがヒュン・ヒュンと唸っているわけである。

12Vでもファンはかなり騒音を発するので、ファンに可変電圧電源を接続して電圧と騒音の関係を調べてみた。電圧を定格50%の6Vまで下げるとかなり静かになるが、当然、風量もかなり低下する。8〜9V程度が音と風量のバランスが取れているようである。

部品箱を探すとLM317TとTA7808Sが出てきた。ヒートシンクの温度を計測し、それに応じてファン電圧をコントロールするのであればLM317Tであろうが、単純にTA7808Sでファン電源を8Vに低減した。

エピローグ

組み込んだLPFが10MHzなので30m/40mの2バンドに対応した、入力5W 出力40Wのリニア・アンプとなった。タイトルは「50W FET・リニア・アンプの製作」で40Wでは看板に偽りありだが、実験では50Wが得られているということで勘弁してもらいたい。

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Last Updated 27/Jul/2008 by mac