現用自作機でファイナルにトランジスターを使用している無線機は7台あるが、その内6台に2SC1971を使っている。2SC1971はご存じのようにTO220型のPC=12.5Wのトランジスターで、フランジがエミッターとなっているので、ヒートシンクに装着する際に絶縁する必要がなく、ゲインも十分にあり、HF〜VHFの小出力ファイナルやドライブ用によく使われている。
しかし、この石もディスコンになったようで市場価格が1個3,000円にも高騰している。高騰する前に購入した手持ちが若干あるので、今すぐ困るということはないが不安である。いざとなったら手持ちが十分にある真空管を使うという奥の手もあるが、
2SC1971を使っている無線機の内、4台はHF用なので、あえて2SC1971を使うまでもなく、別のトランジスターで代用できるはずである。自作機ではリニア・アンプは別基板で作っており、簡単に交換できるので、2SC1971に換わる小出力の汎用リニアを計画してみた。
実は2SC1971に換わるトランジスターの選定といってもこれが結構大変である。昔のCB用トランジスターは市場からほぼ姿を消しており、すぐ思いつくような型番のトランジスターは2SC1971ほどではないが、それなりに高騰している。でも2SC1971一個の値段で数個、購入できればそれなりのメリットがある。通販サイト等にリストされているものの内、1,000円以下で購入できるCB用トランジスターを調べてみた。
2SC1969、2SC2029、2SC2078、2SC2166等がリストできたので、その内から1個160円程度と安価であった2SC2078を通販で購入した。
2SC2078が到着したので、とりあえずシングルエンドでデータを取ることにした。2SC2078はデータ・シートからも判るように、27MHzで約5W出力のCB用のトランジスターである。今回、製作しようとするリニアはQRP5W用であるが、シングルでは余裕がないので、最終的にはプッシュプルにすることにする。
入出力をインピーダンス比4:1と1:4のトランスで固めた測定用アンプをバラックで作り、7MHz、14MHz、21MHz、28MHzで入出力特性を計測してみた。といってもまともなSGを持っていないので、ローパワー出力端子のある自作機や手持ちの水晶を使った発振器を総動員し、出力波形が崩れる直前の出力を計測した。
2SC2078だけではなく、ついでに2SC1971も計測したが、改めて2SC1971の使いやすさを再認識した結果となったが、無い物ねだりしても仕方がない。
2SC2078の14MHz以上の特性が良くないが、これは十分なベース電流を供給できないためである。バイアス調整用のボリウムを回すとそれなりの出力が得られたので、本番ではバイアス回路を工夫する必要がある。
2SC2078 | 2SC1971 | |||||||
周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 | 周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 | |
7MHz | 440mA | 3.0W | 30mW | 7MHz | 540mA | 3.9W | 25mW | |
14MHz | 430mA | 1.9W | 30mW | 14MHz | 600mA | 3.0W | 30mW | |
21MHz | 280mA | 1.4W | 80mW | 21MHz | 540mA | 3.2W | 60mW | |
28MHz | 320mA | 1.5W | 100mW | 28MHz | 620mA | 3.0W | 100mW |
回路構成はファイナルがプッシュプルの2段増幅で前段も2SC2078にする。入出力のトランスであるが今回はコンペンショナル・タイプで試してみた。バイアス回路は上図のようにトランジスターを使用したシリーズ・パス・タイプした。前段は抵抗とダイオードだけでもOKであるが、この方がアイドリング電流の調整がスムーズになる。
バラックセットでテスト中の本機である。このセットでは前段に2SC2029を使用している。基板上には試験した伝送路タイプのトランスも載っている。
トランスに使用したフェライト・コアも#43のものやテレビ・バラン用などさまざまであり、巻数も最適化されてはいないが下表のような結果となった。
出力は28MHzでも5
W以上、それ以下では10W近くまで出たので、出力5Wになるように入力を調整した。7MHzでは入力感度が非常に高くなり、手持ちのアッテネーターでは絞り切れなかった。
電流は12V電源の入力を測定しているので、ファイナル部のコレクター電流だけでは1A程度と思われる。オシロで
観測した14MHzと28MHzの波形は歪みはあるがマアマアであった。
周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 |
14MHz | 1.2A | 5.0W | 12mW |
28MHz | 1.2A | 5.0W | 90mW |
その後、2SC2029をいくつか入手したので、ファイナルを2SC2078から、2SC2029へ換えてデータをとってみた。前段は2SC2029のままである。
結果は下表のとおりであるが、2SC2029の方が電源入力電流が若干、多めであるが、その代わり入力電力は低くなっている。こちらもオシロで
14MHzと28MHzの波形観測したが歪みはあるがマアマアであった。
周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 |
14MHz | 1.3A | 5.0W | 10mW |
28MHz | 1.3A | 5.0W | 75mW |
このアンプでは入出力にフェライト・コアに巻いたトランスを使用している。最適化はされていないが下記のトランスでも14MHz〜28MHzでは使用できている。それ以下の周波数ではもしかすると巻数が不足しているかもしれない。
出力用トランス
秋葉原の斎藤電気商会で購入。#43材のメガネ・コアにコレクター側はそれぞれの穴に1回貫通し、出力側はそれぞれの穴に2回貫通してある。
ドライバー用トランス
これも秋葉原の斎藤電気商会で購入。#61材のメガネ・コアにベース側はそれぞれの穴に1回貫通し、入力側はそれぞれの穴に2回貫通してある。
入力用トランス
テレビ・バラン用のコアを使用して、バイファイラーで2回巻いてある。
バラック状態であった基板を整理した。調整はアイドリング電流をトランジスター1本あたり50mAに設定するだけである。回路図でR adjと書いてある抵抗を可変してアイドリング電流を調整する。調整後の抵抗値は数kオームになる。入力側に10dBのATTを挿入して7MHzの波形を観測してみた。台形状になっていて、とてもではないが使えそうにもない。14MHzではLPFなしでもマアマアという感じである。試しにカットオフ30MHzのLPFをいれるとそこそこ見られる波形となったので、自作20mトランシーバーのアンプを入れ替えてみようと思っている。
LPFなしの14MHz5W出力 30MHzLPF装着時の14MHz5W出力
番外編
試作で使用したトランジスターが余ったので、もう1台、同じようなアンプを製作してみた。今回はドライバー段もプッシュプルの構成とした。ただし、ドライバー段にもファイナルと同じトランジスターではオーバーな感じとなるので、PC=5Wの2SC2028を採用した。
このトランジスターは型番からも判るように2SC2029のドライバー用である。ファイナルも2SC2029にすれば、すっきりするのだが余ったトランジスターが2SC2078なので、こちらをファイナルとした。
トランス類であるが、出力用は同じであるが、ドライバー段はFB801-43を4個、入力段は2個をメガネ状にしたものを使用し、巻数は1:2である。
ドライバー段もプッシュプルにすると回路図が上下対象になり、スクエアーな印象となる。そんな遊び心で作ってみたが、
性能的にはドライバー段がシングルの場合と同じである。
せっかくアンプを作ったので30mBAND送信機を改造して外付けアンプにしてみた。これも2SC1971シングルで、送信機としてよりも真空管CWトランシーバーの外付けアンプとして使うことが多いので、VXO回路等を外して40m/30mBAND用外付けリニア専用に改造した。10MHzLPFを内蔵しているので、7MHzのオシロ波形も問題ない。
真空管CWトランシーバーと組み合わせると7MHzでは入力オーバーとなったので、入力アッテネーターを切り替えるスイッチを追加した。
真空管CWトランシーバーと組み合わせた7MHz5W
出力時の波形で10MHzLPFを通してある。
コンベンショナル・タイプ VS 伝送路タイプ
今回のアンプは全てコンベンショナル・タイプのトランスで製作したが、伝送路タイプのトランスとの比較をしてみた。前段も含めて全て換えるのは大変なので、出力側だけを伝送路タイプに換装した。
左図にあるようにコンベンショナル・タイプでは1つのコアでトランスを構成するのに対し、伝送路タイプではこれをバイファイラー巻の2つの伝送路タイプのトランスに分け、直流カット用のコンデンサーで結合する。
番外編で製作したオール・プッシュプルのアンプをバラックで改造して測定した結果は下表のとおりである。28MHzでは伝送路タイプはコンベンショナル・タイプの65%の電源入力電流で5Wの出力が得られている。14MHzでも85%となっているので、バッテリー・オペレーションのポータブル無線機を製作する場合は伝送路タイプの方が有利であろう。
周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 |
14MHz | 1.06A | 5.0W | 9mW |
28MHz | 0.85A | 5.0W | 50mW |
T1はFT50-61コアにバイファイラー10回巻、T2はFT50-43コアにバイファイラー4回巻とした。
上述した2SC2028を使ったアンプを作ってみた。2SC2028シングルでも1W以上、得られるのでQRP機器のファイナルに最適である。しかし、プッシュプルで3W程度の出力となると、これならば2SC2029や2SC2078シングルで十分に得ることができるので、かなり中途半端な感じである。50MHzでも計測してみたが、残念ながらPG=0dBであった。番外編その2
当初、出力トランスをコンベンショナル・タイプにしたら1Wも出なかったので、伝送路タイプに作り替えた。トランス類であるが、入力はFB801-43を2個、メガネ状にしたものを使用し、巻数は1:2である。出力側はT50-61コアにバイファイラー10回巻、FT50-43コアにバイファイラー4回巻である。
周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 |
7MHz | 0.82A | 3.7W | 30mW |
21MHz | 0.69A | 2.7W | 90mW |
28MHz | 0.82A | 2.8W | 100mW |
番外編その2では2SC2028を使ったが、同じ富士通で2SC2024というPc=1Wクラスのトランジスターがあったので、これを試してみた。このトランジスターはフル・モールドなので放熱板に取り付ける際、絶縁しなくてもOKなので製作が容易となる。供試回路は番外編その2と同じである。
番外編その3
しかし、結果は惨憺たるモノで0.5Wにも届かなかった。
ジャンク箱に同じPc=1Wクラスのトランジスターである2SC1957があったので、換装してみた。こちらは放熱板に取り付ける際には絶縁する必要があるが、結果は優秀で7MHzで3.2W、50MHzでも0.4Wの出力が得られた。さすがにデータシートに27MHzのデータが記載されているトランジスターだけのことはある。
2SC2024 | 2SC1957 | |||||||
周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 | 周波数 | 電源入力電流 | 出力電力 | 入力電力 | |
7MHz | 300mA | 0.45W | 15mW | 7MHz | 640mA | 3.2W | 20mW | |
28MHz | 400mA | 0.29W | 45mW | 28MHz | 620mA | 2.3W | 55mW | |
50MHz | 140mA | 0.15W | 50mW | 50MHz | 140mA | 0.4W | 60mW |
悲劇編
2SC1969という石がある。この石は2SC1971と同じTO220型であるが、コレクタ損失が2SC1971の12.5Wに対して20Wもあり、27MHzにおいて16Wも出るようである。写真にある取り外し品の2SC1969が2本あったので、これをPPにして30W程度を取り出そうと目論んだ。
回路は上述の2段増幅であるが、30Wをひねり出そうというので、出力側を伝送路タイプして、コアもダブルにしたり、大きめのモノに換えてみた。
出力にパワー計を接続し、14MHzで10mWを入力すると10Wが得られた。シメシメこれならばということで、DDSを使ったSGを接続し1MHz、2MHz、3MHzと1MHzステップで周波数をアップして5MHzで約30Wとなった。さらにアップして7MHzにしたら、急激にパワー・ダウンして5Wしか出なくなってしまった。
石をチェックしたらPPの片側が逝っていた。いろいろと調べた結果、DDSを使ったSGが原因であることが判った。SGの出力は5MHzまでは10mW程度しか出ないが、7MHzでは50mW以上にもなり、入力オーバーで片側の石が逝って片肺になったようである。未使用の2SC1969がもう1本だけあるが、さすがに再チャレンジする気にはならなかった。
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