知り合いから預かった戦前のイギリス製ラジオ Philco 444である。
動作するかどうかのチェックを頼まれたが、この種のアンティーク・ラジオをいじるのは初めてなのでネットで情報を集めてみた。
Philco 444 "People's Set" Radio (1936) - Phil's Old Radios
People´s Set 444 Radio Philco Radio of GB, build 1936, 15 pi ...
上記サイトによると、このラジオは4球構成のスーパー受信機で1936年には発売されていたとのことである。
ところで、スーパー受信機ラジオというと5球スーパーが思い浮かぶが、 Philco 444は
4球である。
5球スーパーでは低周波段が例えば、6AV6-6AR5の2段構成で検波が6AV6で行われているが、Philco 444では6AV6に相当する球がない。
その代わり、出力段は5極管に検波用のダイオードが組み込まれた複合管 PenDD61が採用されている。
なぜ、このような4球構成になったかというと上記サイトの説明によると当時、ラジオ受信機は高嶺の花で、一般的な庶民にも手が届くようにコスト・ダウンしたためのようである。
使用真空管は周波数変換 6A7、中間周波数増幅 78、検波・電力増幅 PenDD61、整流 80である。
写真だけでは良くわからないと思われるが、幅33.5cm、高さ39.5cm、奥行34.5cm、重量9.3kgとかなり大柄なラジオである。
上述したサイトから回路図や配置図をダウンロードしそれを参考にしながらチェックしてみた。
先ず、内部のほこりをダストブロワーで吹き飛ばした。
内部をチェックするためにはケースからシャーシーを取り出す必要がある。
前面にあるボリウム、バンド切り替え、同調ダイアルのつまみを注意して取り外し、その後、底部にあるビス4本を抜くとシャーシーを引き出すことができる。
次に4本の真空管を抜いたが、周波数変換 6A7と中間周波数増幅 78のソケットはシールド・ケース対応となっていたが、シールド・ケースは付いておらず、78にはアルミ・ホイルが巻きつけてあった。
内部配線には電源トランスから整流 80への配線や電源コード等、
何箇所か手が入った形跡があった。
その後、テスターでトランス類をチェックしたが、断線している箇所はなかった。
このラジオは電源スイッチ付きボリウムを採用しているが、残念ながらスイッチ部の導通がなかった。
方針というと大げさであるが、どの程度までリペアーするか検討してみたい。
このラジオは背面のプレートにも記載してあるが、入力電源は200V-260V、40-100CYCLESとなっている。
日本は100Vなので、このラジオを使うためには100Vをトランスで昇圧して200Vを用意するか、家庭用の単相3線200Vを利用することになる。
前オーナーは昇圧トランスを使用していたようであるが、残念ながら手持ちがない。
また、我が家でもIHレンジ用に200Vが配線されているが、コンセントはIHレンジの裏側に隠れているので、簡単に使用できない。
手持ちのパーツをチェックしたら大昔のタンゴST-220という電源トランスが出てきた。
このトランスはB電圧用に250V、ヒーター用に5V2A、6.3V2A他があるので、このラジオにはマッチする。
当然、入力電圧はAC100Vである。
オリジナルの電源トランスはそのままとし、このタンゴST-220を外付けとしてラジオ内部にケーブルで供給することにし、写真のような仮電源を作成した。
ラジオにはGTソケットからプラグ付きケーブルで電力を供給し、電源スイッチも設けた。
これからシャーシー内部にアクセスするが、シャーシーを裏返した時、パーツ類を保護するため、ベニア板で簡単なスタンドも作った。
シャーシー内部に5P立ラグを取り付け、そこで内部配線と外付けのタンゴST-220からのケーブルを中継することにする。
この5P立ラグもオリジナルの電源トランスの取り付けねじを利用して取り付け、余計な穴を開けないように配慮した。
このようにすれば、オリジナルの電源トランスへも簡単に戻すことができる。
このラジオの整流回路には8uF*2のブロック・コンデンサーが使用されているが、取り替えた形跡がなかったので、念のため、最新の22uF400Vの電解コンデンサーを5P立ラグを取り付けたものに交換した。
本来であれば、オリジナルの値に近い10uFを使用したかったが、手持ちの関係で22uFとした。
整流回路はコンデンサー・インプット型であるが、22uFであれば全く問題ないであろう。
ただし、オリジナルのブロック・コンデンサーはそのまま残してある。
左はシャーシー内部の様子であるが、オリジナルの配線はなるべくそのままとしたが、ボリウムのアース側の線が断線していたので、取り替えた。
その他のコンデンサーや抵抗はテスターでチェックしたが、とりあえず使えそうな感じである。
ところで、カップリング・コンデンサー類は絶縁チューブの状態から前オーナーにより交換されていると思われるが、その他のコンデンサーや抵抗は半田付けの状態からすると製造当時のままの可能性が高いと思われる。
いよいよ、仮電源を接続して動作をチェックしてみる。
その前に真空管のチェックをしてみたが、外観上はゲッターもしっかりして問題なさそうであったが、テスターでヒーター、フィラメントの導通を調べたら、整流管80が断線していた。
手持ちの真空管を漁ったら、GTシェープの80が出てきたので、これを使用する。
問題は検波・電力増幅 PenDD61でヒーターはとりあえず、OKであったが、これが使用できない場合、代わりを見つけることは非常に困難であろう。
仮電源の電源スイッチをONにするとバネル面の照明が点灯したので、びっくりした。
昔の豆電球が使われていたので、切れていて当たり前だと思っていたからである。
全ての球も点灯し、しばらくするとスピーカーからモーター・ボーディング音が出てきた。
同調バリコンを回すとモーター・ボーディング音の中から放送が聞こえてきた。
どうやら、なんとか動作しているようである。
モーター・ボーディング音だが、やはり6A7と78にシールト・ケースがないのが原因だと思われる。
アルミ・ホィールで巻くのも芸がないので、ビールのアルミ缶をはさみで切り開き筒状に丸めたものを作った。
接合には文具のホッチィキスを使用した。
これを6A7と78に被せたらモーター・ボーディング音は解消した。
ダイアルを回すと東京多摩地区でよく聞こえるNHK第一、第二、AFN、TBSが問題なく受信できた。
音質だがちょっと歪っぽい感じがするので、もしかするとカップリンク・コンデンサーがリークしている可能性がある。
音量は控えめであるが、これは低周波段が1段しかなく全体的なゲイン不足が原因かもしれない。
ボリウムは製造当時のものと思われるが、懸念していたガリはなくスムーズに音量調整ができた。
本来ならば、トラッキング等の調整を行うべきであるが、トリマーやIFTのコアが固着している可能性もあるので触らないほうが賢明であろう。
とりあえず、預かった目的である動作チェックができた。
それにしても、真空管、コイル、トランス、バリコン、ソケット等、ほとんどが製造当時のものであると思われるが、整流管80やボリウムの電源スイッチを除き、断線や接触不良もなく等もよく保っているものだと感心した。
ところで写真は、中波ダイアル面であるが、イギリス国内の放送局だけではなく、パリやベルリンの記載もあり、ヨーロッパの国々は中波電波が良く届く地理的状況にあることが分かる。