「電池管を使った無線機の製作」では7MHzモノバンド受信機とエキサイターまでを作ったので、「電池管を使った無線機の製作その2」ではパワーアンプを作ることにする。このアンプはラックタイプのケース上段に配置する。各ユニットはシャーシー(W200mm*H40mm*D150mm)にパネル(W250mm*H100mm)をたてたものなので、これに収まるように製作する。
半導体を使用すれば、100Wアンプも可能であるが、筆者の運用スタイルがほとんどQRPなので、せいぜい5Wまでのアンプとしたい。タイトルどおり、電池管を使用した無線機(アンプ)としたいが、ちょっと問題がある。電池管にこだわると適当な球がないのである。
送信用の電池管としては3A4があるが、C級でも1.2Wしか出ない。5Wとすると数本が必要となるが、ちょっと現実的ではない。
それでは、軍用無線機ではどうしていたのであろうか。GRC-109の場合、受信機は当然の事ながら、オール電池管であるが、送信機は6AC7-2E26の組合せである。GRC-9の場合も受信部はオール電池管であるが、送信部は3A4-3A4-2E22となっていて、さすがに終段まで電池管ということはない。これらの軍用無線機の出力は10〜20Wなので、そもそも終段まで電池管というコンセプトでは無理がある。
やはり真空管を使用したアンプとしたい。出力は5W程度とし、終段管は手持ちの球から選択することにする。候補としては6AQ5、6V6、6BQ5、2E26、6146あたりである。6AQ5、6V6、6BQ5は本来、受信管であるが、7MHzでの使用は全く問題ないであろう。なお、6AQ5と6V6はMT管とGT管の違いはあるが、電気特性は同一である。2E26、6146は立派な送信管である。
やはり、サイズの問題があるので、MT管の6AQ5または6BQ5であろうか。6AQ5と6BQ5の違いであるが、6BQ5の方が一回り大きな球であり、感度が高くドライブが楽に出来る。
球は左から6293(6146同等パルス用)、2E26、6BQ5、7189、6AQ5、6V6である。7189、6AQ5、6V6は元箱入りである。7189は720円、6V6は780円の定価が印刷してある。これらの球は三十数年前に購入したが、当時の実売価格は定価の半額程度だった記憶がある。
Class A Amplifier | 6AQ5 | 6BQ5 |
Plate Voltage | 250V | 250V |
Grid No.2 Voltage | 250 V | 250 V |
Grid No.1 Voltage | -12.5 V | -7.3 V |
Plate Resistance (approx) | 52K Ohms | 38K Ohms |
Transconductance | 4100 microMhos | 11.3K microMhos |
Plate Current (Zero Signal) | 45 mA | 48 mA |
Plate Current (Maximum Signal) | 47 mA | 50.6 mA |
Grid No.2 Current (Zero Signal) | 4.5 mA | 5.5 mA |
Grid No.2 Current (Maximum Signal) | 7 mA | 10 mA |
Load Resistance | 5k Ohms | 4.5k Ohms |
Power Output (approx) | 4.5 W | 5.7 W |
Total Harmonic Distortion | 8 % | 10 % |
6BQ5のA級動作ではグリッドバイアス-7.3Vで5.7Wの出力が得られる。A級であれば、グリッド電流は流れないので、ドライビングパワーは少なくてもOKである。ドライブには電圧だけを考えればよいので、10mWをインピーダンス変換して数Vにすれば、直接ドライブも夢ではない。
トロイダル・コアを使用したステップアップトランスを数種類作り、いろいろと試したが、
せいぜいP-Pで数V程度しか得られなかった。残念ながら真空管を使用したドライバーを作ることにした。
「電池管を使った無線機」が当初のコンセプトなので、せめてドライバーだけでも電池管を使うことにした。球は手持ちがあった3A4である。左図のような回路構成でどの程度の出力が得られるか測定してみた。エキサイターから十数mW入れて出力が百数十mW、PGで10dBといったところである。入力トランスはFCZ7、出力トランスはトロイダコアを使用した。3A4はA級で動作させているが、もう少し、入力電圧をかせげれば、200mWオーバーも狙えそうである。それにしても、真空管を使うと大げさになってしまう。2SK125あたりを使うと非常に簡単なのであるが・・・
3A4のバイアスの与え方は「電池管を使った無線機の製作」での3Q4の方法を踏襲したが、今回は抵抗ではなく、電流ブーストしたツェナーを使った。3A4のフィラメントをシリーズ点灯させると2.8V0.1Aとなる。DC10.6Vを3A4の7番ピンへ供給すると、1番ピンは10.6V-2.8V=7.8Vに保つ必要がある。受信機ではここに抵抗を入れたが、抵抗値はフィラメント電流にプレート電流やスクリーングリッド電流も重畳される分を加味して決める必要がある。しかし、ツェナーで強制的に1番ピンを7.8Vに保てばプレート電流等が変化しても、フィラメントに印可される電圧を一定に保つことが出来る。もちろん、フィラメントへ供給する10.6Vも安定化してある。ただし、抵抗の場合は何らかの理由でプレート電流が増えると、それに比例してバイアス電圧も深くなるので、プレート電流を抑制する効果がある。
通常、ツェナーの許容電流はせいぜい数十mAであるが、フィラメント電流+@で百数十mAにもなるので、トランジスターで電流ブーストしてやる。電圧の調整はツェナーのばらつきを利用して7.8Vとなるようにする。場合よっては小信号ダイオードやLEDをシリーズに接続して電圧を調整する。
もちろん、ツェナーではなく、抵抗を利用しても全く問題ない。ただし、いずれにしても1W程度の損失が発生するので放熱に注意する必要がある。
終段管はさんざん迷ったが、今まで使ったことのない6BQ5を採用した。3A4のドライバーでは150mWの出力が得られたので、段間トランスによるステップダウンとグリッドリーク抵抗値により、適当な入力電圧が6BQ5へ印加できるように調整した。
6BQ5の動作はA級であり、出力トランスはトロイダルコアに巻いたモノである。プレート負荷抵抗数kオームを50オームに変換している。このトランスの巻数比は約10:1となる。A級動作では無信号時でもプレート電流が流れるので電源効率が非常に悪くなる。受信時にはカットオフ付近までバイアスを深くできるようにカソード抵抗を切り換えている。
上述の3A4ドライバーと6BQ5アンプをバラックセットで組み合わせた。プレート電流50mAで出力は5W強となった。同調指示用にタンクコイルのプレート側から小容量コンデンサーでネオン管を結合した。ネオン管が一番輝くように同調バリコンを回すと、出力計も相似動作をしたので、同調指示に十分使えそうである。
ドライバー段は一度、調整しておけば頻繁に再調整する必要がないので、同調指示は省くことにする。
バラックセットでは、6BQ5のバイアスはカソード抵抗を使った。しかし、6BQ5の動作例によるとバイアス値は-7.3Vであり、3A4のバイアス値-7.8Vとほとんど同じである。6BQ5のカソードも3A4で使っている定電圧回路に接続すれば、カソード抵抗を使わなくてもバイアスを与えることができそうである。
カソード抵抗を使うとその損失は7.3V*50mA=365mWとなり、2W程度のワッテージが必要となる。しかし、このような回路で使う抵抗は1/4W型で全く問題ないので、抵抗を求めて秋葉原へ行く必要がない。ただし、受信時に6BQ5をカットオフするためには15kオームの抵抗を使った。この時、カソード電圧20Vなので、この抵抗のワッテージは1/4WでOKである。
逆電流防止とスイッチングのため、トランジスターを介して3A4の定電圧回路に接続した。6BQ5のカソード電圧8.0V、プレート電圧260V、プレート電流40mAとなった。
ドライバーから終段までを含めた試作がOKだったので、正規のユニットに組み込むことにした。シャーシー、パネルの加工をしてパーツを取り付け、各ブロック毎に試験をした。
終段ブロックの試験をしている時、ドライブ回路を製作する前に試していたステップ・アップトランスのデータをとることを思いついた。前回はステップアップトランスを巻き、2次側に適当な負荷抵抗を接続し、オシロで波形を観測するという方法であった。その時は、Peak to Peakでせいぜい5V程度だったので、これではフルドライブは無理だと判断し、ドライバー回路を作り始めたわけである。
今回は、実際に6BQ5のグリッドにトランスを接続し、出力を計測した。最初はFB-801に巻いた巻線比1:2のトランスである。入力15mWで出力1Wであった。次は同じくFB-801に巻いた巻線比1:3のトランスである。この時の出力は1.5Wである。これらの試験では2次側に負荷抵抗は接続していない。
もう少し頑張れれば、フルドライブ出来そうである。#61材のフェライトコアに17回巻き、その上に耐熱電線を数ターン巻いたトランスを用意した。最初は負荷抵抗なしで試験すると見事に自己発振してしまった。負荷抵抗に4.7kオームを接続すると自己発振は止まり、5Wの出力が得られた。1次側の巻き数を変えて試すと3ターンが最適で出力も5W強まで上がった。負荷抵抗に4.7kオームをパラって2.35kオームにすると5W弱となったので、これで行くことにした。
このトランスの巻線比を1:6とするとインピーダンス比は1:36となり、2次側が2.35kオームであると1次側は65オームとなるのでつじつまは合ってくる。15mWが2.35kオームに消費されると電圧は約5.9Vとなるので、6BQ5のバイアス-7.3Vとも合致する。ただし、かなり余裕のない状態でドライブしているが、グリッドリークはC級の場合、十数kオームにすることが多いので、2.35kオームはそれに比べても低いので実際にアンテナを接続しても大丈夫あろう。それにしても、オシロのプローブに比べても真空管の入力インピーダンスは十分高いようである。やはり実際の回路を組んで試験してみないとわからないものである。
ところが、ダミーロードで試験しているときは全く問題なかったが、ダミーロードを外すと見事に自己発振してしまった。やはり、グリッド側のインピーダンスが高くなり、フィードバックがかかり発振したようである。これではちょっと不安定すぎて、アンテナをつなぐわけにはいかない。昔は、Cpgをキャンセルする中和回路を挿入したものだが、やり方を忘れてしまったので、当初のコンセプトどおり、3A4のドライバーを使い、ローインピーダンスでドライブすることにしよう。
必要とする電源は250V50mA、130V15mA、90V3mA、6.3V0.8A、12V200mAである。250Vは6BQ5のプレート、スクリーングリッド用である。130V、90Vは3A4のプレート、スクリーングリッド用である。12Vは3A4のフィラメント用とアンテナ切替のリレー用である。このアンプ単体でも他の無線機と組み合わせることができるように電源は全て内蔵することにした。トランスは100V:120V、10VAの絶縁トランスとジャンク出身の並三用トランスを使用した。並三用トランスは0V-6V-12Vの端子がある12V1Aのトランスで代用できる。ただし、レギュレータICは低損失タイプを使用する必要がある。
130Vは250Vからドロップさせ、ツェナーで安定化している。13Vツェナーを10本シリーズして130Vとしている。90Vは変則的であるが、10本シリーズのアースから7本目から取り出している。ドロップ用抵抗は2W強の損失となるので発熱対策としてシャーシー上に設置してある。
コントロールは6BQ5のバイアス切替とアンテナリレーだけである。コントロール端子をアースすると送信状態になるが、この端子には受信時、6BQ5のカソード電圧20Vが現れるのでオープンコレクターで制御する場合、耐圧に注意する。制御信号はエキサイターから来る。
LPFは定番の定K型である。
本機では終段をA級動作させているので、プレート電流はほとんど一定である。そのため、プレート電流の変化で、タンク回路を同調させることが出来ない。807を使ったCW送信機でもA級動作させたが、こちらでは電流計を使ったRFセンサーを作り、それを同調指示に使った。今回は、適当な電流計やラジケーターの手持ちがなかったので、ネオン管を使ってみた。
ネオン管による同調指示は、真空管のようにハイインピーダンスとなる素子でしか出来ない芸当である。タンク回路にネオン管を小容量コンデンサーで結合させ、タンク回路のバリコンを調整すると同調するに従ってネオン管が輝きを増すことでインジケーターの役目をさせるものである。
回路も簡単だし、ネオン管自体も安価なので昔の送信機にもよく使われた。今回はAC100V用のホルダー入りネオン管を使用した。このネオン管は片側に数百kオームの抵抗が入っており、直接AC100Vに接続できるようになっている。接続するのは抵抗の入っていない側の端子である。タンク回路から10pF程度を介して接続する。同調バリコンを回すと輝きだした。点灯しない場合は抵抗の入っている端子に接続した可能性がある。
ダミーロードで試験していた時は全く問題なかったが、アンテナを接続するとうまく点灯しない。エキサイターと本機の間にアッテネーターを挿入して、出力と点灯の関係を調べてみた。5Wで点灯させて徐々にアッテネーターを絞ると3Wで消灯した。再点灯には4Wが必要でかなりのヒステリシス特性である。アンテナのSWR状態によっては点灯させるだけのパワーが得られないようである。
当然、ネオン管にも電流が流れる。アースリターンはFig Aのようにストレー容量を利用している。しかし、これが不足しているようなので、ホルダー入りネオン管を改造して抵抗を外し、Fig Bのようにアース側にも小容量コンデンサーを接続した。筆者の場合、プレート側コンデンサーは30pF、アース側コンデンサーは3pFとした。
本機では、トロイダルコアに巻いたトランス(コイル)を各段のインピーダンスマッチングに使っている。全体の構成はまるで真空管式のトランス結合A級シングルオーディオ・アンプのようである。実際、同じコンセプトで製作しているが、AFと違ってRFではトロイダルコアを使うと簡単にトランスもどきを製作できる。作り方は簡単で必要とする巻き数比が得られる、コアサイズや種類を選択し、巻き数の多い方を先に巻き、その上から巻き数の少ない方を巻くだけである。トランスに直流を流す場合は飽和しないように大きめのコア・サイズを選択する。更に、1次-2次間の耐圧に注意する必要があるので、巻き数の少ない方に耐熱電線を使っている。
エキサイターからの15mWをステップアップして、ドライバー管3A4に入力している。#61のフェライト・コアを使い、巻き数比3:9とし、2次側を1kオームでターミネートしている。当初はFCZ-7を使ったが、ゲインが安定しなかったのでこちらに換えた。多分、フェライト・コアの代わりにフェライトビーズのFB-801が使えるはずである。
ドライブ段-終段の段間トランスで、3A4のプレート側は7MHzに同調させている。プレート側のインダクタンスは3uH程度、巻き数比は23:5となっている。2次側を470オームでターミネートしている。コアはT68-2である。
タンク回路のトランスでプレート側のインダクタンスは6uH程度、巻き数比は34:4となっている。2次側は当然、50オームを想定している。コアはT106-2である。
本機は入力15mW、出力5Wの7MHz専用A級リニアアンプである。CWにしか使っていないがリニアアンプなので、SSBにも使えるはずである。
パネル前面のコントロールは電源スイッチ、6BQ5のプレート同調だけである。3A4のプレート同調バリコンは穴からドライバーを差し込んで調整できるが、ほとんど再調整の必要はない。同調つまみの左はネオン管である。
真空管は左から6BQ5、3A4である。6BQ5は20mmばかりシャーシーに落とし込んである。6BQ5脇の大きな抵抗は電圧ドロップ用の10kオームパラで、放熱のためシャーシー上部へ配置した。抵抗は大きすぎるが、これも手持ちジャンクの活用である。
中央のバリコンは3A4のプレート同調用である。パネル前面の穴からドライバーで調整できるようにした。バリコン右はバイアス回路とトランジスタ・スイッチ回路である。
ラックに収めて運用してみた。ネオン管の同調指示も快適に動作している。別の受信機でモニターするとトーンも全く問題ない。本機と下段の受信機+エキサイターを組み合わせるとCWトランシーバーになる。筐体は受信機+エキサイターとリニアアンプに別れてはいるが、機能的には完全に7MHzモノバンドCW専用トランシーバーである。受信機+エキサイターにはセミブレークイン回路を内蔵しているので、QSOしたい局を受信してキーを叩くと送信状態になる。受信ピッチが700Hzになるように同調させると、送信時には相手局にゼロインできるよう、プログラミングされている。出力は5WのQRPなので、運用にはそれなりのテクニックが必要であるが、とりあえず、何局かと無事QSOすることができた。
本機はA級動作で製作した。A級は効率は良くないが、バイアスが浅く、ドライブしやすいのが特徴である。今回のようにエキサイターのローパワードライブでそれなりのパワーをひねり出すような時には打って付けである。ただし、無信号時にも常時プレート電流が流れてしまうのはもったいない。せめて受信時には省エネしたいものである。そのため、受信時にはカソード抵抗を大きくしてバイアスを深くし、プレート電流を2mA程度までに抑制している。
6BQ5のヒーターは6.3V、0.76Aでこれだけで約4.8Wにもなる。さらにプレート入力が約12.5W、計17.3Wに対し、出力が5Wなので、総合的な効率は約29%である。AB級(プレート効率60%)にしても総合的な効率は約36%である。トランジスターのAB級アンプでは通常60%程度となるので、真空管の場合はヒーター電力が馬鹿にならないことがわかる。本機でも6BQ5のヒーターが一番の熱発生源である。ちなみに二番目は3A4に供給するための電圧ドロップ抵抗(約2W)である。それでも真空管にはやはり愛着がある。