押入を整理していたら、まとまった数の電池管が出てきた。これらはGRC109やGRC-9の予備球として購入したものである。GRC-9は米軍の移動用無線機であるが、所有していたのは自衛隊用に日本電気で国産されたものである。移動用無線機といってもちょっとしたトランクほどの大きさがあり、置き場所に困って部品取りにして処分してしまった。今、考えるともったいない気がする。
電池管を使って何か無線機を作ってみよう。40年以上も前のことであるが、ラジオから取り外した電池管を使ってインターホーンを作った記憶がある。電池管で作るのはそれ以来である。
ケースはGRC-9の真空管予備品箱である。ケース自体は米国製であるが、真空管は国産の2E22、3A4、0C3/VR-105、3Q4、1S5、1L4、1R5が入っている。
バラの球はGRC-109用で1T4、1L6、1U5等である。
1T4は自衛隊向けのパッケージで日本電気製、1L6は米軍向けのパッケージでSYLVANIA製である。これらの真空管は20年近くも前に購入したものである。1L6は品薄で現在、1本数千円に高騰しているが当時は確か500円以下だったはずである。
電池管は一般的にgmが低く、リモートカットオフ管の1T4で数百程度である。同じくリモートカットオフ管6BA6の4000程度と比べてもかなり低いので、受信機を作るとしてもハイバンドまで欲張ってもまともに動作しないと思われる。せいぜい10MHz以下が実用的な動作範囲であり、IFも455kHzあたりが妥当であろう。構成としては結局、高一中二であろうか。真空管トランシーバーでも受信部の構成は高一中二であるが、発熱対策で局発用DDSをファンで冷却している。これがちよっと癪に障るので同様な構成で静音化した無線機を構想してみた。電池管はフィラメント電力も1本あたり70mW、5本並べてもたったの350mWで、6BA6のヒーター電力が1本で1890mWもあることを考えると発熱の点ではかなり有利である。信号ラインは電池管で構成して、局発、BFO、電源等の回路は半導体で作ることにする。
7MHzCW専用とするがJA9TTT/1加藤OMのサイトにセラロックを使用したフィルターが紹介されていたのでこれを試してみたいと思っている。
局発は使い慣れた秋月のDDSとする。DDSを局発に使用する場合、IFへ落ちるスプリアスが問題となるが、IFは455kHzなので局発周波数と十分離れているので大丈夫である。DDS局発はトランシープ操作用DDSVFOを若干アレンジしたものである。このVFOは局発周波数からIF分をシフトさせた周波数も出力できるので、CW専用であるがエキサイターにもなる。コントロールは10Hz/100Hzステップの切り替え、スプリットのON/OFFだけである。7MHzモノ・バンド、アッパーヘテロダインのシングル・コンバージョンとするので、DDSのポストアンプには7.0MHz-7.5MHzのBPFを挿入する。受信時には7.000MHz+0.455MHZ(IF)を出力し、送信時には7.000MHzを出力することになる。
DDSVFO用ポストアンプ、約10mWの出力となる。受信時、2SC1906には常時通電されるが、送信時には2SC1906をキーイングすることにより、CWエキサイターとなる。
DDSVFO_PICコントロール回路図 PNGファイル 5kB
PIC サンプルプログラム(バイナリー)sampleup.obj 6kB 右クリックでダウンロード。
上記、DDSVFO_PICコントロール回路図において、本サンプルプログラムで焼き込んだPICを装着すると、下記条件のDDSVFOとなる。詳細は筆者()まで。
スタート表示周波数 | 7MHz | |
IF周波数 | 455KHz | |
受信時発振周波数 | 表示周波数+455KHz | |
送信時発振周波数 | =表示周波数 | |
ステップ周波数切り替え | 10Hz/100Hz/50kHz | |
PICプログラマーConfig設定 | FOSC | HS |
WDTE | Disable | |
PWRTE | Enable | |
CP | Disable |
電池管は1.4Vで点灯することになるが、まさか乾電池というわけにはいかないので、12Vから1.4Vを作ることにした。電流容量は電池管6本を想定すると300mAとなる。12Vから1.4Vを作るとその間の電圧差は10.6Vとなり300mAでは3.18Wの電力ロスが発生するので、放熱も考慮しなければならない。
今回は1度6.8Vに降圧した後、LM317Tを使って1.4Vを作った。5Vレギュレーター7805にLEDで1.8Vのゲタを履かせて6.8Vを作った。これは後述する3Q4のバイアスとLM317Tの入出力電圧差5Vを確保するためである。結果的には7805とLM317Tで放熱を分担していることになる。
無線機自体の構成は電池管を使用したシングルスーパー受信機であるが、局発にトラ
ンシーブ対応DDSを使用するので、CW送信出力も持っている。プロ用や軍用無線機に
見られる受信機+エキサイターというわけである。もちろん、それなりのアンプを付
加しないとトランシーバーとはならない。
アルミ・シャシーとアルミ・パネルを組み合わせてラックタイプのケース(W250mm*H200mm*D200mm)を作った。各ユニットはシャーシー(W200mm*H40mm*D150mm)にパネル(W250mm*H100mm)をたてたもので2ユニットが入る。1階部分が受信機+エキサイター、2階部分がアンプとなる。アンプを真空管で作るか、ある
いはトランジスターにするかは後から考えることにする。
B電源はAC100Vを全波整流した後、MOS-FETによるレギュレータ兼リップルフィルターを経由して90Vを作った。SG用としてツェナーで65Vに安定化した。
12Vの方はやはり全波整流した後、低損失レギュレーターでDC12Vを作っている。これから前述したフィラメント電源へも供給される。
RFは1T4、MIXERは1R5を使用した。1T4のプレート側はFCZコイルを使用した単同調で結合コンデンサーで1R5と接続している。アンテナコイルのグリッド側巻線はトロイダルコアに巻き、アンテナ側はその上に調整しながら数ターン巻いた。アンテナコイルもプレート側コイルも7MHzCWバンド内で再チューンしなくても良いよう、適当にブロードにしたい。
IFは1T4による2段増幅である。トップのフィルターは、JA9TTT/1加藤OMのサイト紹介されていたセラロックを使用したものである。5素子CW用で、そこそこの特性が得られた。SGを1R5にグリッドに接続し、2ndIFの出力をダイオードで検波し、電圧を計測した。-6dBが約0.9kHz、-50dBが約2.7kHzであった。残念ながら-60dBは計測できなかった。IFTはトランジスター用をそのまま、使用しているが、耐電圧不足のリスクは当然あるので、注意する必要がある。
検波はダイオードによるリング検波とした。ゲイン不足を補うために1k:10kのトランスを挿入してある。昔の再生受信機に使用した1:3トランス代わりであろうか。
AGC用信号は1段目の1T4プレートから取り出し、2SK241で増幅して整流している。これは2段目のIFからAGC用信号を取り出すとBFO信号が回り込んでしまうからである。
BFOには、フィルターを作る際に選別した中から、適当な周波数のセラロックを使用した。出力は50オーム終端で約2mWである。発振周波数は444.2kHzとしたが、2SC945周りのコンデンサーで調整する必要がある。
AF段は1U5、3Q4による2段増幅で出力は約250mWである。
電池管は直熱管なので、バイアス電圧には一工夫が必要である。1T4、1R5、1U5は0バイアスでの使い方になる。出力管の3Q4は-4〜-5V程度のバイアスが必要となるが次のような方法とした。
フィラメント電源の5VレギュレータにLEDでゲタを履かせて6.8V程度の出力を得る。これを3Q4のフィラメントに供給する。3Q4のフィラメントをシリーズに接続すると2.8Vとなるので、6.8-2.8=4.0V分を抵抗で消費させれば、3Q4のNo1ピンは4.0Vとなる。RCAの真空管マニュアルによるとNo1ピンの電圧がバイアスの基準となるので、-4Vのバイアスがかかることになる。抵抗には3Q4のプレート電流+スクリーン電流の約10mAとフィラメント電流50mA、計60mAが流れるので、抵抗値は4.0/0.06=66.7オームとなる。200オームと100オームの抵抗を並列にするとぴったりとなる。
試験中の写真である。ラインアップは右手前から1T4-1R5-1T4-1T4-1U5-3Q4である。前面のコネクターは局発代わりのSG入力用である。シャーシー右側のトロイダルコアはアンテナコイルであり、FCZ-7コイルと比較した。ステップアップ比を簡単に設定できるトロイダルコアの方を採用した。中央部はDDS-VFO設置用スペースである。
AFゲインが不足していたので、リングダイオード検波の後に1k:10kのトランスを挿入してある。
7MHzCWを聞いたが、そこそこ感度がある割には、セットノイズが少ないのが良い感じである。
この結果に気をよくしてシャシー内の配線を整理したら、なんだか感度が悪くなっている。試験中のバラック配線がうまい具合に、フィードバックループを形成して再生がかかった状態になっていたようである。試しにセラロックを使用したフィルターをバイパスしてMIXERと1stIFを直結したら、感度的には満足できるレベルになった。電池管はgmが低いのでやはり全体的にゲイン不足になっているようである。
フィルターの損失分を補う必要があり、理想的にはIFを1段追加するのがベターであるが、真空管を追加するスペースがない。信号ラインだけでもオール真空管の予定であったが、仕方ないのでフィルターの後に2SK125を使ったゲイン補償用アンプを挿入した。このアンプを含めてフィルターモジュールと苦しい言い訳である。
真空管受信機のSメーターはIF段のカソード電位を計測するのが定番であるが、電池管は直熱なのでカソードがなくこの手は使えない。試しにプレート電流の変化を計測してみると無信号で3mA、AGCが一番効いた状態で1mAとなったのでこれを利用すれば良さそうである。
プレート電流を直接計測すると無信号で一番振れることになるので、違和感がある。電流計を天地入れ替えて使うという手もあるが、プレート電流が流れるところに1kオームの抵抗を入れ、その両端の電圧変化でSメーターを振らせることにした。この方法であれば信号が強くなると右に振れることになる。
本機はCWエキサイター部もあるので、送受信切り替え、キーイング、サイド・トーンをコントロールする必要がある。セミブレークイン回路はコンデンサーと抵抗を組み合わせた簡単なものである。
サイドトーンはNE555を使用したものである。波形はノコギリ状であるが、キーイングによるチャピリがなく他の自作無線機でも使っている。
SGをVFO代わりにしてとりあえず、受信できるようになったが、アンテナ端子をアースしてもSメーターがふらふらと振れている。0.01uF250Vのコンデンサーで各段をアースしていくと1R5のプレートでビンゴとなった。1R5がノイズの発生源のようである。
電池管を使った軍用無線機では、1R5のフィラメントには例外なくチョークを挿入していることを思い出した。部品箱にあった120uHをフィラメント回路に挿入してみたら、Sメーターの振れ幅が半分にまで改善された。ついでにRF段の1T4のフィラメントにも念のため、47uHのチョークを挿入したが、こちらはあまり効果がなかった。
シャーシーにパネルを立て、局発のDDSVFOを載せた。パネル面のコントロールは、Sメーターの下が左からAGCのON/OFF、RITのON/OFF、周波数ステップ100Hz/10Hz切り替えである。つまみは左からRF-GAIN、AF-GAIN、周波数ダイアルである。Sメーターの左側にはRX-ANTとエキサイター出力に使うBNCコネクターを配置してある。
とりあえず、本機単独で7MHzCWが受信できるようになったが、AFゲインが若干不足気味である。トランジスターで軽く補償するか、あるいは高能率スピーカーを使う必要がありそうである。ただし、ヘッドフォーンであればゲイン不足は感じられない。
ここで新たな問題が発覚した。ヘッドフォーンで聞くとAFゲインを絞っても残留ノイズが感じられる。さらにシャーシーを弾くと軽いハウリングがある。試しにAF段の1U5を指で軽く弾いたら、ここが発生源であることがわかった。gmの低い球の割にはこんなところだけ元気であるとは・・・。そういえば、軍用受信機R-1004/GRC-109では、1U5もしっかりシールドケースに入っている。
その他にも、強い信号を受信するとAGCがしゃっくりを起こしたようになる。また、送受信切替後もしゃっくり現象が発生する。AGCの定数や、送受信切替時のミュートを検討する必要がある。
AGCを調整した。AGCラインに0.33uFを追加したら、しゃっくり現象はかなり改善された。1uFまで試したが、これではスローになりすぎた。DDSから1R5への局発注入も手直しした。DDSVFOのRX_OUTに3dBパッドを入れ、1R5にはFCZ-7コイルを利用したステップアップトランスを挿入した。1R5はgmが低いせいか、局発注入電圧は高めにしないとコンバージョン・ゲインがかせげないようである。
まともな測定器がないので定量的な測定は出来ないが、聞いた感じでは真空管CWトランシーバーよりも好感が持てる。本機の方が受信音がまろやかで聞きやすいし、セットノイズも少ない。しかし、パネルを弾くと軽いハウリングを起こしてしまう。ハウリング防止のため、AF段の1U5、3Q4もシールドケースに入れて真空管を保持したいが、手持ちのシールドケースは使い果たしてしまった。今後の課題である。
エキサイター出力は約15mWあり、807を使ったCW送信機を外付けリニアアンプにして運用してみた。出力は5WQRP、アンテナは軒に張ったロングワイヤーである。なんとか数局とQSOできた。聞く方は問題ないが、やはり5WQRPにロングワイヤーでは相手局にとっては辛いのかもしれない。
本機はトランシーブされたエキサイター出力を持っているので、外部リニアと組み合わせると7MHzモノバンドCW専用トランシーバーになる。セミブレークイン回路を内蔵し、外部リニア用のコントロール端子もあるので、本機に電鍵を差し込んで叩くとリニアも含めて送信状態になる。
相手局が700Hzピッチとなるように同調すると、送信時にはゼロインできるようにプログラムされている。RITも備えているので、スプリット運用にも対応できる。使い方は、送信したい周波数にセットし、RIT-ONすればその周波数が送信時の周波数としてメモリーされる。残念ながらプログラミングの関係から送信状態のままで周波数を可変させることはできない。慣れないとちょっと使いづらいが、ないよりはましである。
ところで真空管自体がレトロな存在であるが、本機に使用した1R5や1T4がRCAにより発表されたのが1939年で、これがMT管の始まりとのことである。6BE6や6BA6よりも1R5や1T4の方がよりレトロということになる。そんな真空管を使って実際のQSOが出来る無線機に仕上げることができた。
シャーシー中央はDDSVFOである。PICコントローラーはLCD裏に取り付けてある。シャーシー内部中央に生プリント基板を取り付けてあり、そこへBFO、コントロール回路、AGCアンプ、サイドトーンをランド+空中配線で組み込んである。シャーシー後はAF出力トランスである。
ラックに装着した本機である。上段は送信アンプ用空ユニットで、これから制作する予定である。ラックとシャーシーの隙間はかなりタイトであるが、なんとか収納できた。
セミブレークインで送信から受信に切り替わる際、瞬時だがエキサイター端子から局発周波数が出力されていた。これはコントロール回路で制御している2個のリレーの釈放タイミングがずれていたのが原因であった。コンデンサーと抵抗によるディレー回路がスイッチング用トランジスタのベース回路に挿入されているため、スイッチング用トランジスタが瞬時にOFFとならない。そのため、制御するリレーが1個であれば問題ないが、複数のリレーだと釈放タイミングがずれてしまう。
解決策は一旦、1個のリレーで受け、そのリレーの接点を使って他の複数のリレーを制御するか、スイッチング用トランジスタを瞬時にOFFさせればよい。今回は、スイッチング用トランジスタが瞬時にOFFとなるようにICを使った回路を追加した。
ある日、ある局をコールしたら、その隣にいた局から応答があり、びっくりしてしまった。原因はBFOのQRHである。本機はBFO周波数が444.2kHzで受信ピッチを700Hzとすると、相手局にこちらの送信周波数が合致するようにDDSがプログラミングされている。BFOの発振周波数が500Hzもずれため、隣にいた局に送信周波数が合ってしまったわけである。バラックで実験した時は問題なかったが実装したら、周囲温度の影響により、QRHを起こしてしまった。発振回路のコンデンサーを温度係数の小さい積層タイプに交換し、BFOの出力端から数十pFのコンデンサーを介して1.5D2Vで外部に取り出し、周波数カウンターで変動を監視した。
コールド・スタート時が444.1kHzで、数時間後にサチレートした時が444.3kHzとなり、変動幅が200Hzに改善された。発振素子にはセラロックを使用しているので、この程度なのかもしれない。455kHzの水晶はあるが、10kHz以上も発振周波数を下げるのは無理な話だし、特注も高くつく。BFOにDDSも大げさだし、これで我慢することにしよう。
本機は背面が解放、上部がメッシュパネルで通風は問題ないと思っていたが、通電後、数時間経つとLCD表示がおかしくなる。内部に熱がこもってDDSコントローラーのPICが誤動作するようである。エキサイターユニットをラックから若干引き出して通風を確保すると、このトラブルは発生しない。
ラック自体に通風経路を確保するため、両サイドに四角い穴を開けメッシュパネルでカバーした通風窓を作った。これにより、誤動作トラブルは解消した。