真空管式高1中2受信機の製作
HOME BACK

GRC109

 GRC109は特殊用途に開発された米軍の通信機で受信機、送信機、電源等から構成されている。下記のセットは、R-1004/GRC-109受信機で3MHz-24MHz3BAND、AM/CW、6球シングルスーパーヘテロダインであり、回路構成は電池管使用の455KHzIFの高1中2となっている。この受信機とともに送信機のT-784/GRC-109をアメリカのサープラスショップから購入した。これらの送受信機を使って7MHzCWで実際のQSOを試みた。分かり切っていたことだが、受信機のIF帯域が広い、ファインチューニングがない、キャリプレートが必要等の欠点があり、数局QSOしただけに終わった。今から十数年前の話である。
その後、受信機内部の写真にも写っているが3連バリコンだけが同じサープラスショップから売り出されていたので、特に使うあてもなかったが、購入しておいた。たまたま、ジャンクを整理していたらこのバリコンが出てきた。このバリコンは周波数直線型でダイアルシャフト20回転でバリコンが180度可変する。このあたりのメカはさすがに軍用無線機でかなりしっかり作られている。これを使い、三十数年前にも自作したことがある真空管式の高1中2受信機をもう一度作ってみようと思い始めた。幸い、CB用だが455kHzのメカフィルやトリオのIFTもある。これらを組み合わせ、ファインチューニングやサイドトーンも装備するとある程度実用になる受信機が作れるかもしれない。

米軍用R1004/GRC109受信機、分厚いアルミダイキャストのケースに入っており、内部はかなりコンパクトである

全体の構成

受信機の構成は早い話が典型的な高1中2である。今さらこんなものを作ってもと思うが、三十数年前と同様な構成でどの程度、より実用的なものができるか試してみたい。送信機と組み合わせて10MHzのCW-QSOで使うことが目標である。この受信機とペアになる真空管式の送信機の製作も面白いかもしれない。その他、短波放送の受信にも使いたい。プレート、スクリーンは全て安定化して供給したい。スタビロでも良いし、トランジスタ化してもよい。ヒーターは安定化した直流電源で供給する。
周波数表示はメカニカル方式だとダイアル周りの機械加工に自信がないが、PICを使い局発を計測してIF分をシフトさせたデジタル表示方式にすれば簡単に実現できそうである。


局発回路の実験

局発回路の実験から開始した。回路はコリンズのものをアレンジした。コリンズのPTOはカソードタップの発振回路を使っている。もっとも回路が似ているだけでPTOとは全く似ていない。適当な鉄のケースがあったので、真空管(6BA6)とコイルを入れてみた。真空管の発熱を利用した恒温槽のつもりであったが、6BA6では発熱量が少なく効果は疑問である。グリッドに入っているダイオードは振幅制限用である。コイルと0.01uFを介して接続されているダイオードはバリキャップの代用である。普通のシリコンダイオードでも逆方向に印可する電圧を可変させるとキャパシタンスが変化するので、これによりバンドスプレッドとする。


この回路での発振周波数は約4-11MHzとなった。455kHzIFの下側ヘテロダインとすると受信周波数は約4.5-11.5MHzとなるが11.5MHzではバリコンの羽が完全に抜けてしまうので、約4.5-10.5MHz程度が実用的な受信範囲であろう。そうすると7MHzと10MHzのハムバンドに対応できる。周波数安定度はコールドスタートしてから数KHz程度の変動に収まっている。しかし、バラックセットのため測定者が動いただけで数Hzの変動が発生してしまう。がっちりしたケースに納めればある程度改善されるはずである。その後、バリコン全体をあり合わせのプラスチックケースで覆ってみたら、測定者が動くことによる変動は収まった。バリコンにとってほんの少しの気流の乱れも変動の要因となるようである。三十数年ぶりに作った真空管式局発であるが、思った以上に安定しているのには驚いた。

トラッキングの検討

使用している3連バリコンは個々のセクションの容量は全て同一である。局発は下側ヘテロダインとするため、IFを得るためには RF-LO=455KHz となるようにRFセクションのコイルのインダクタンスを決定する必要がある。7MHz受信の際には局発は6.545MHzを発振している。その時、局発コイル8.8uHに対してバリコンは67pFとなる。3連バリコンなのでRFセクションも同じ67pFとなるので、7MHzに同調させるためのインダクタンスは7.7uHとなる。これを元に5MHzと10.15MHzを計算すると下表のようになり、7MHzでは455kHzのIFとなるが、バンドの上下では455kHzから大きくずれてしまう。これをトラッキングエラーというが、この現象を解消するためにはバリコンの容量特性をRFセクションとLOセクションで変えるか、同じくコイルの特性を変える必要がある。

RF同調周波数 LO周波数 IF(RF-LO)
5MHz 4.672MHz 0.328MHz
7MHz 6.545MHz 0.455MHz
10.15MHz 9.489MHz 0.661MHz
コリンズの受信機は機械的な構造により各コイルのダストコアの出し入れを調整してトラッキングをとっているがこのメカは芸術的ともいえ、とてもではないがマネできるものではない。同一容量の多連バリコンを使う場合、局発セクションに直列にキャパシターを挿入して合成容量を少なくしてトラッキングをとる方法がある。この場合は、上側ヘテロダインとすることが多く、局発周波数は同調周波数よりもIF分だけ高くなる。中波帯のスーパーヘテロダイン受信機では通常、この方法となっている。
今回は、別の方法を採用した。トラッキングにこだわるのは同調ダイアルだけでバンドの全てのポイントで最良の受信状態としたいためである。RFセクションに小容量のバリコンを並列に接続して受信ポイント毎に調整するならば、バンドのどこでも完全にトラッキングをとることが可能である。10pFのバリコンを使い、RFセクションのコイルを6.2uHとすると10pFの可変範囲で455KHzのIFとなる周波数で同調させるさせることができる。
受信ポイント毎に10pFのバリコンを調整してRFセクションをLO+455kHzに同調させるわけである。同調ダイアル一つというわけには行かないが、トラッキングで悩むよりも現実的であろう。旧日本陸軍の地一号受信機(これはアメリカのHRO受信機のコピーだといわれている)にもトラッキング調整用バリコンがパネル面から操作できるようになっていた。

ケース

ケースはシャーシーと裁断済みのアルミパネルをL字アングルで接合する方法で作った。大きさはW30cm*H15cm*D20cmである。前面、側面は2mm厚、上下は1.5mm厚のパネルを使用した。背面は放熱のため開放とした。裁断済みのパネルを使用するので、ドリル、金ノコ、ヤスリだけで組立ができる。

上面のパネルは取り外しできるようにする。

電源の製作

昔の高1中2であれば、電源は250V程度のB電源と6.3VACのヒーター電源だけで事足りた。しかし、今回はヒーターとB電源を安定化したかったのでヒーター用には0-4-6V2Aの巻き線が二つあるトランスを使い、B電源用には2次側に120Vの巻き線があるトランスを使った。安定化ヒーター用には2組の巻き線の0V同士を接続し両端の4Vタップから8Vを取り出し、それを倍電圧整流し16VDCを得た後、低損失の12VレギュレーターICをかませて12V1Aを用意した。これを使い、局発とBFOの6BA6を直列接続して12V0.3Aを供給して、残りを周波数カウンター、切り替えリレー他に使うことにした。低周波増幅の6BM8にはトランスの片方の巻き線の0-6VからACで供給する。この場合、片側は接地出来ないので両端を浮かせて使うことになる。他の巻き線の0-6VはRF、MIX、IFの6BA6、6BE6に供給する。安定化した5VはVFOのファイン・チューニングとSメーターの基準電圧に使用する。
B電源はAC120Vをブリッジ整流してDC140V程度を得て、6BM8に供給するほか、安定化した105Vを高周波回路に供給する。安定化にはとりあえずスタビロを使ったが、場合によってはトランジスタを使った回路にしてもよい。

     
電源回路を作った。このようにセクション毎に作り上げていくとトラブルの切り分けが簡単にできる。真空管はスタビロとBFO用の6BA6である。


RF-MIXERセクションの製作

RFは6BA6、MIXERは6BE6を使用した。昔からの高1中2定番の真空管と回路である。変わったところといえば、スクリーングリッドをツェナーダイオードで安定化したところである。三十数年前にはこのように簡便に使える定電圧素子はなかった。スクリーン電圧はプレート電圧の80%程度に設定するのが望ましいと真空管バンドブックに記載されていた。プレート電圧は100V程度を予定しているので、スクリーンは80Vとなる。13Vツェナーダイオードの在庫が大量にあるので6本シリースすると78Vとなる。同調コイルはトロイダルコアに巻き、約6.5uHとなるように巻数を調整した。トラッキングについてはメインのパリコンと並列に接続した10pFのパリコンでパネル全面から調整することになる。
組立が終了したら簡単な試験をする。先ず、各部の電圧のチェックをする。プレートが105V、スクリーンが80V、カソードが2V程度となる。IFTの2次側にゲルマニウム・ダイオードとクリスタル・イヤフォーンを仮配線し、アンテナを接続して、6MHzあたりの短波放送帯を探ると放送が聞こえてきた。6BA6のアンテナとプレート側のトリマバリコンを廻すと感度が上昇するポイントがあった。10MHzあたりでチェックするとトリマバリコンの位置によっては発振気味となる。ANTとRFで結合してしまっているようである。シールド板を立てる必要がありそうである。この状態はIF、AFなしの高1スーパーである。

RFセクションの再調整

シールド板を立ててから発振気味になる現象はなくなったが、6BA6のプレート側のコイルの巻数が足りず、バンドの低い方ではトラッキング調整用のバリコンを全部入れても最大感度に調整できない。また、次段の6BE6との結合用コンデンサーとの関連と思われる浮遊容量が発生して、トラッキング調整用バリコンの予期せぬ位置で感度上昇が発生していた。それらを解消するため、巻数を1ターン増やし、その上に1次側を約13ターン巻いて複巻とした。これにより、動作も安定してトラッキングバリコンを調整するとスムースに感度上昇するようになった。1次側の巻数の最適化も必要だが・・・・

IF、AFセクションの製作

IF段を追加し、AFも6BM8を組み込んだ。IFトップはジャンクの漁業用無線機から取り出した6KHz幅のメカニカルフィルターを使った。これも多分30年は経っている代物であろう。CW/SSB用にはCB用の2.2kHz幅のメカニカルフィルターを切り替えて使う予定である。とりあえずは6KHz幅のメカニカルフィルターだけで仮配線しておく。AF段は何の変哲もない6BM8の回路である。これでとりあえず、高1中2のラインナップとなった。AGCは検波用のゲルマニウム・ダイオードから取り出してRF段とIF段にかけてある。これもSSB/CW用の検波回路を組み込むときに見直す予定である。
局発の安定度がバラックで実験したときよりも悪い感じがする。105VのスタビロからはAF段を除く全ての真空管に供給しているが、負荷が重くなっているのかもしれないので、局発専用にツェナーで安定化した専用の電源を用意した。
メカニカルフィルターの特性が悪いのか、高1中1状態よりもあきらかに受信音が劣化している。高1中1状態でクリスタル・イヤフォーンで聞いたときは短波放送はこんなに音が良かったのかと感激したが、高1中2ではあまり上等な音とは言えない。放送を聞くのであればトップもLCのIFTの方が音が良さそうである。AF段からもハムが出ているのでこちらも調整する必要がある。これは出力トランスが電源トランスからの誘導を拾っているのかもしれない。トランスの向きを変える必要があるようである。やはり真空管は面倒である。ハム音は出力管(6BM8)スクリーンへ供給している電源にデカップリングを追加したらかなり低減した。トランスの向きも念のため変えておいた。とりあえず、高1中2となった。

周波数表示カウンター

PICと液晶ディスプレーのカウンターで局発を計測し、それに455kHzを加算して受信周波数を表示する。カウンターはJK1XKP貝原OMの開発されたものを若干、改造して使っている。このIFシフト機能付きのカウンターがあったので、今回のプロジェクトもスタートできたようなものである。このカウンターがなければ、ダイヤル廻りは機械的に作る必要があるが、機械加工は大の苦手なのでこのプロジェクトも日の目を見なかったはすである。455kHzシフトは事前にプログラムに書き込んでから、PICに焼き込んだ。PICに焼き込むことができる環境が必要であるが、秋月のキットを使えば数千円で実現可能である。カウンター自体も数千円で自作できる。


テスト中のカウンター、表示周波数は局発+455KHzである。バックは蛇の目基板のカウンター本体

BFOの製作

BFO用のコイルはアメリカのサープラス・ショップから通販で購入したR390のBFO用PTOである。本来の使い方はPTOのシャフトを回転させて中のコアの出し入れにより周波数を可変させる。ただし、回転につれシャフトが伸び縮みするのでそれを吸収する蛇腹式のカップリングを使う。しかし、カップリングを使うと場所を取るので、コイルに内蔵されているコンデンサーと並列にバリコンを接続して、バリコンにより周波数を可変することにした。バリコンは50pFで約6kHzの可変範囲となった。とりあえず、BFO出力の線を検波用ダイオードに巻き付け、疎結合させてキャリア注入した。これでようやくSSB/CWが聞こえるようになった。フィルターがワイドであることが幸いしてか音は悪くない。

狭帯域フィルター

IFTはとりあえず、AM用の6kHz幅のもの使用しているが、2.2kHz幅のメカニカル・フィルターを試験した。フィルター自体はかなり以前のハム・フェアーで入手したCB無線機用でブランドはコリンズである。うろ覚えだが、入出力インピーダンスはたしか数百オームだったので真空管とマッチングさせるためにはトランスが必要となる。ジャンク箱を探すとトランジスタ用IFTが出てきた。これらは秋葉原ラジオデパート3Fのシオヤ無線電機商会で購入したものでAM2A(15k:150)とSLVCB4(35k:150)であった。同じものが2個なかったので、AM2Aを入力、SLVCB4を出力側に使った。
トランジスタ用であり、105V印加は出来ないので、入力側は6BE6のプレートにチョークを挿入して0.01uFのコンデンサーを介して接続し、出力側はAGCをかける関係から120pFで接続した。 さすがに狭帯域フィルター、7MHzSSBを聴くとサイドが切れて快適であるが残念ながら受信音に若干の歪みがある。ゲインも不足気味であったが、IFTのコアを調整するとかなり改善された。



フレームは両面のプリント基板、IFTはアースに落とすピンとケースで保持している。

SSB/CW検波

フィルターも狭くなったので、SSB/CW検波回路を実験した。別の受信機で実験したDBMICを使った検波基板があったはずであったが、探せなかったので、ゲルマニウム・ダイオードを使用したリング検波回路を試してみた。
レベル不足を補うアンプも必要かと思われるが、とりあえず、下記の回路で試した。IF入力は検波段IFTの1次側から20pFで取り出し、トランジスタ用IFTでステップ・ダウンした。BFO入力もステップ・ダウンの必要もありそうであるが、こちらもとりあえず、そのまま入力した。結果は上々でキャリア漏れもあまり感じられず、AM検波回路を使った間に合わせのものとは雲泥の差があった。別の受信機で実験したDBMICではIF、BFOのレベル管理がクリチカルであったが、リング検波ではそれほど神経質にならなくてもよさそうである。

Sメーター

三十数年前に自作した高1中2でもSメーターを装備したはずであるが、どんな回路だったかは忘れてしましった。今回は2nDIFのカソード電圧と基準電圧の差を計る方式とした。局発のファイン・チューニング用に安定化した5Vを使っているので、それを10kボリウムで分割して零点調整とし、感度調整は200uAメーターに20kボリウムをシリースに接続した。AGCはAM用のままであるが、良いフィーリンクで振れている。

スタンバイ回路

送信機と組み合わせて使うとなるとスタンバイ回路が必要となる。マイナス電源を用意して送信時、AGC回路にゲインが減少するようバイアスをかけるのがスマートである。この場合、IFゲイン調整を兼ねることもできる。マイナス電源を作るためにはもう一つ、トランスが必要となるが、適当な手持ちがなかったので別の方法を採用した。IF段6BA6のカソード抵抗に10kオーム程度のボリウムをシリーズに接続してIFゲインを調整する方法は良く知られている。本機でもIFゲイン調整をするつもりであったが、特段の不都合がないので省いたが送信時、適当な音量でサイドトーンが聞こえる程度にIFゲインが調整できれば、サイドトーン回路も不要であり、一石二鳥となる。10kオームのボリウムをカソード回路に仮接続して、送信時に適当なサイドトーンが得られるように調整した。しかし、2nDIFのカソードもコントロールしたため、スタンバイにするとSメーターもマイナス側に振り切れてしまった。これでは都合が悪いので、RF段の6BA6と1sTIFの6BA6のカソード抵抗に直列に10kオームのボリウムを接続しリレーで切り替えることとした。このリレーを送信機と連動すれば、立派なスタンバイ回路となる。10kオームボリウムは、ケース裏面に配置してスタンバイ時のゲイン調整に使う。

AM検波、AGC回路

AM検波も少しいじってみた。ラジオたんぱの音楽放送が非常に歪んだのがきっかけである。AM用のメカフィルあたりが怪しいと思い、メカフィルをバイパスしてみたり、RF-IFのゲインを下げてみたり、各ポイントの信号をゲルマニウム・ダイオードとクリスタルイヤフォーンでチェックしてみたが、歪み感は残る。その後の競馬中継のアナウンサーの声は若干、歪みっぽいものの音楽放送ほどではない。昔の「ハムジャーナル」から拝借したトランジスタAM検波回路を試してみたがオーソドックスな検波回路の方がよかった。もちろん、AGCも外してみたが関係なかった。製作途中のRFとMIXだけの状態でクリスタルイヤフォーンで聴いた音は感激ものであったが、あの音はどこへいってしまったのだろうか。今後の課題が残ってしまったようである。
当初の予定では独立したAM検波回路を設け、検波段IFT2次側はAGC回路だけに使用する予定であった。AM検波回路は上記のトランジスタ式のものを使う予定が、余りよい結果ではなく従来の検波回路とした。スイッチやリレーで切り替えすれば、SSB/CW受信時にはAM検波回路を切り離すことが可能だが、モード切替のロータリースイッチのセクションが足りず、AGC回路もAM検波と同居する形となってしまった。CWとSSBで時定数を変えたかったが、切り替えスイッチ用に追加の穴あけが面倒なのでこれも止めてしまった。


コントロール回路

トランシーバーほどではないが、コントロール回路も必要となる。モードはAMワイド、AMナロー、SSB/CWワイド、SSB/CWナローの4ポジションとした。切り替え用のロータリースイッチは3セクションしかなかったので、足りない分はリレーを組み合わせてある。しかし、リレー駆動用12Vも容量不足なのでこのあたりが限度のようである。

まとめ

仮配線や仮接続した部品等を撤去して、配線類を整線した。周波数カウンターも取り付けたのでこれで一応完成となった。これから手直しが必要と思われるのは、SSB/CW時の検波出力不足である。検波回路にゲイン不足を補う簡単な低周波アンプを入れた方がよいだろう。もう一つ気になるのはAM用メカフィルの特性である。これは三十数年もののジャンクを使ったが、顕著なピークが二つある双峰特性であった。多分、経年劣化だと思われるが、村田あたりの最新のセラフィルに置き換えてみたい。SSB/CW用の方は特に問題はなかった。
局発の周波数安定度であるが、AMを聴いている分にはそれほどではないが、SSB/CWではちょっと辛いものがある。ある周波数から別の周波数へ移動した場合、発振条件が変化するが、ある程度安定するまで時間がかかる。このあたりはノーコンの発振回路では仕方ないことなのかもしれない。数分で100Hz程度、一定方向へ変動するので、温度係数の違うコンデンサーを発振回路に組み合わせれば改善の余地はありそうである。手っ取り早い方法としてはDDS等の外付け局発を付加することであるが、これでは当初のコンセプトから外れてしまう。十分暖めておけば、5NN BKスタイルのCWQSOで使う分にはなんとかなりそうである。

クリックすると拡大画像(約50kB)となります。

つまみは上段列左からメイン、ファイン、下段左からRF GAIN、ANT TUNE、RF TUNE、BFO、MODE、AF GAIN

クリックすると拡大画像(約50kB)となります。

左側のケースが局発、内部に6BA6とコイルが入っている。バリコンの右側にはギャ機構がついている。6BM8、VR105以外はシールドケース付きソケットを使っている。

クリックすると拡大画像(約50kB)となります

写真下側の円筒形のものはR390のBFO用PTO、その右がSSB/CW検波回路、右側水色が2.2kHzSSB/CWフィルター、その下の小さな水色は7kHzAMフィルター

スペック

まともなSG等がないので定量的な測定項目はないがスペックは以下のとおりである。
受信周波数 5MHz〜10.5MHz
モード     AM WIDE、AM NARROW、SSB/CW WIDE、SSB/CW NARROW
コントロール メイン・チューニング、ファイン・チューニング、AF、RF、ANT、BFO、MODE
使用真空管  RF 6BA6、MIX 6BE6、LO 6BA6、1stIF 6BA6、2nDIF 6BA6、BFO 6BA6、AF 6BM8、REG VR105
周波数安定度 電源ON後1時間以降は15分で100Hz以内
電源 AC100V
周波数安定度であるが、本機が熱的に平衡するまでの約1時間、局発周波数は約10kHz低下する。その後はスペックに書いたとおり、15分で100Hz程度下がる方向で変動する。マイナス係数を持ったコンデンサーを有効に使えば改善されると思うが、受信周波数がカウンターで直読できるので手動調整でも何とかなっている。最新トランシーバーの周波数安定度は抜群なので相手のピッチやトーンに合わせておけば問題ない。QRVに使う10MHz送信機807CW送信機はVXOなので、本機の局発よりもかなり安定している。こちらは一度キャリブレートしておけば送信周波数の変動は考慮しないで済む。

真空管用パーツ

これから真空管を使った無線機を作ろうと思っている方にとっては、パーツの入手状況が気になることであろう。本機と同じパリコンを入手するのは不可能と思われるが、普通の3連パリコンであれば何とか入手できると思われる。ギャメカはジャンクのアナログ式トランシーバーあたりから取り外すのが正解かもしれない。IFTは単同調のトランジスタ用を背中合わせにするとよいだろう。この場合、耐圧不足となるのでコンデンサーで直流を切ってやると良い。AM用メカフィルはラジオ用のセラミックフィルターが入手できるので、IFTトランスでインピーダンスマッチングをする。SSB/CW用はトランシーバーのオプションと用意されているものが同様の方法で使えると思う。コイルはトロイダル・コアで巻くと簡単である。もちろん、タイトやベークのボビンに巻いてもよいだろう。昔のトリオやスターのコイルパックやIFTもオークション等で入手できるが、それなりの値段を覚悟する必要がある。周波数表示はPICを使ったカウンターで済ませたが、やはりメカニカルなダイアルの方が趣がある。グリッドやカソード回路のあまり電圧のかからないところはトランジスター用のコンデンサーや抵抗がそのまま使える。電源やプレート回路は250Vや500V耐圧のコンデンサーを使うことになるが、秋葉原では問題なく入手できる。真空管やソケット類も今のところは入手可能である。電源トランスも本機のように絶縁トランスや低圧トランスを組み合わせれば高価な真空管用をあえて購入する必要もない。別の受信機では6.3Vヒーターをシリーズに接続して12Vスイッチング電源によりDCで供給したが、コントロール用リレーやトランジスターやICを使った付属回路にも供給できて便利であった。

ようやく初QSO

10MHz送信機を改造してスタンバイ用の12V信号を取り出し、本機と組み合わせた。送受信機が別々なので受信した信号に送信周波数を合わせる必要があり、これをキャリブレートをとると呼んでいる。送信機から微弱信号を出して受信しているCW信号とビートのピッチを合わせる。最初、キャリブレートの信号が2箇所で聞こえてしまうので、メカフィルの入出力が結合しているのかと思い、かなり無理して配置を変えてみた。でも、相変わらず2箇所で聞こえる。ようやく、モード・スイッチがワイドになっているのに気付き、ナローにしたらきれいに片側だけとなった。
ワイド用には30年もののAMメカフィルを使っているが、これが見事な双峰特性である。これでCWを聞いたら2箇所となるのは当たり前であった。相手のビートに合わせてキャリブレートをとるのであるが、これってかなり面倒である。ピッチが合っていなくて応答がないのか、こちらのローパワー信号が届いていないのかの区別がなかなかつかない。ようやく応答があり、高一中二受信機を使った初QSOと相成った。
10MHzはベランダに設置した釣り竿ホイップに自作オートチューナーでQRVしている。同じアンテナを我がシャック唯一のメーカー製リグであるトリオTS-530に接続して聞き比べてみた。このTS-530とて20年以上も前に中古で購入したものだが、受信音はソフトトーンでなおかつ了解度も高く気に入っている。本機の方が音質的にはハードであるがとりあえず、TS-530で聞こえる信号は本機でも受信できた。私としてはTS-530の音質の方が好きであるが、本機でもCW、SSBとも実用範囲だと思われる。周波数安定度はTS-530の方に軍配が上がるようである。BFOは安定しているので調整する必要はない。ファインチューニングと音量調整だけでハムバンドのワッチが可能である。AGCは常に入った状態なのであるがこちらも問題はないようである。当初の目的である10MHzのCWQSOで使うことができた。

やはり、高1中2とくれば、送信機は807だろうということで、807を使った7MHz/10MHzの2バンドCW送信機も作った。現在は、これをペアにして7MHz、10MHzにQRVしている。

クリックすると拡大画像(約50kB)となります

手直しその1

イヤフォーンを使い、小音量で聞いているとハム音が気になる。当初、6BM8の電力増幅部は整流直後の140Vからプレートもスクリーンも供給していた。ハムがひどかったのでスクリーンには抵抗と電解コンデンサーでデカップリング回路を追加したら改善された。多分、プレートにもデカップリング回路が必要と思われたので、500オームと40uFの電解コンデンサーを追加した。結果は上々でイヤフォーンで聞いてもハム音は気にならなくなった。そういえば、昔は整流後にはチョークを挿入してフィルター回路を作るのが定番であった。適当なチョークがなかったので省略してしまったがそれが敗因のようである。

手直しその2

やはり周波数安定度が気になったので、少し手直しをしてみた。現状は電源投入後、熱的に平衡するまで局発周波数は下がり続け、平衡後も約15分で100Hz程度の割合で低下する。ということはマイナス係数の温度特性を持ったコンデンサーで補償する必要がある。局発回路はコイルとパリコンで構成され固定コンデンサーはグリッドとコイル間にある15pFとファインチューニング用の直流遮断に使っている0.01uFのみである。15pFはすでにマイナス係数を有するスチロールコンデンサーを使っている。残りは0.01uFのセラミック・コンデンサーだけである。これを10pFのスチロールに変更した。ファインチューニング用にはダイオードをバリキャップ代わりに使用しているが、この静電容量はせいぜい0.数pF程度であるので0.01uFも10pFも合成容量に換算するとほとんど変わりがないが、スチロールのマイナス温度特性は効いてくる。
エージングを兼ねて温度特性を監視した。やはり熱的に平衡するまで約10kHz程度低下した。その後も以前と同じゆるやかな低下傾向を示した。一晩そのままで放置し翌朝。観察したら今回は約7時間で1kHz上昇していた。放置試験は以前も行ったが、1kHz程度低下しており、上昇したのは今回初めてであった。100kHz程度離れた別の周波数へ移動し観察したが、10分間で10〜20Hzの変動であり、以前よりは安定していた。最終的な判断はもう少し経過観察してからとなる。
積極的に温度補償するならば、コイルと並列にマイナス係数を有する小容量コンデンサーを接続すべきであるが、手持ちがないので別の機会に再トライしてみたい。

手直しその3

サトー電気から通販で京セラのセラミックフィルターを購入した。リストにあった中から帯域の一番狭かった6素子、7kHz幅のものを選んだ。このフィルターの入出力インピーダンスは2kオームなので手持ちのIFTを使い、インピーダンスマッチングをとった。使ったIFTはAM2A(15k:150)とスペック不明のボディーに「A」と書かれたものである。マッチングの方法は狭帯域フィルターと同じである。30年もののフィルターを外し、セラフィルに付け替えた。7190kHzの北京からの日本語放送を受信してみた。こちらのフィルターの方が格段に音がよい。帯域幅は6dBで±3.5kHz、50dBで±9kHzとカタログにうたわれているが、受信した感じではそのとおりだと思われた。

中央、水色が7kHz幅の京セラ・セラミックフィルター


下側、黒色が30年もののフィルター、TOYOというブランドである

手直しその4

7MHzのSSBをTS-530と聞き比べてみると本機の方がどうしても了解度が悪いようである。本機にはチューナーを介したロングワイヤーを接続し、TS-530の方には2m程のワイヤーをアンテナとした。試しにアンテナを入れ替えてみると本機もTS-530並の了解度となった。今度はTS-530の方が了解度が悪くなってしまった。どうやら、ロングワイヤーの方がよけいなノイズも拾ってしまい、S/N比が悪化したようである。やはり、RFトップでゲイン調整をした方が良さそうである。トップの6BA6のカソード抵抗300オームにシリーズに10kオームのボリウムを接続してRFゲイン調整とした。ボリウムはLEDパイロットランプを外したあとに配置してパネル前面から調整できるようにした。RFゲインを絞るとS/N比が向上して了解度が上がった。

手直しその5

LEDパイロットランプを外してRFゲインに代えてしまったので、音量を絞っていると外からは電源が入っているかどうか判らなくなってしまった。パネル面上部にはスペースがあるのでそこへランプを付けようかとも思ったが穴明けが面倒である。ジャンク箱を探してみたら昔買った白色LEDが出てきた。12Vで点灯し電流も10mAしか流れないが随分と明るい。Sメーターは昔のラジケーター風のもので透明のプラスチックケースを使っている。ケースの外側にLEDをビニールテープで仮付けして点灯してみたら、照明付きメーターの趣である。LEDを接着しやすいように少し削って瞬間接着剤で接着した。これでパイロットランプも一件落着である。

手直しその6

IFフィルターであるが、当初は30年もののジャンクフィルターと2.2kHzフィルターをリレーで切り替えていた。ジャンクフィルターは入出トランス内臓のため、2.2kHzフィルターも前後に入出トランスをつけ、インピーダンスの高い方をリレーで切り替えたわけである。、その後、手直しその3でジャンクフィルターを京セラのセラミックフィルターに交換したが、この時も前後に入出力トランスをつけ、切り替え回路はそのままであった。しかし、考えてみるとわざわざインピーダンスの高い方で切り替える必要はない。入出力トランスを共通にしてインピーダンスの低い方で切り替えた方が合理的である。この手直しの結果であるが、京セラの7kHzの方はスカート特性がかなり改善された。しかし、2.2kHzの方は入出力のマッチングが変わって帯域内の振幅特性が若干悪くなったようである。

手直しその7

BFOは単独だときれいな正弦波であるが、検波回路に接続すると結構歪んでしまう。そこで2SK125を使った簡単なソースフォロワー回路を作り、低インピーダンスでドライブしてみた。その結果、歪みが感じられギスギスしていた復調音がまろやかになり、ノイズも減少し、S/N比も改善されたようである。

HOME BACK

Last Updated 11/Feb/2004 by mac