汎用トランシーバーの製作ではジェネレーター部を製作したが、本稿では受信部フロント・エンド、送信部BPF、リニア・アンプ、LPFを製作してマルチバンド対応の5W SSB/CWトランシーバーとしてまとめてみたい。
広帯域のJ310GGアンプを製作し、ジェネレーター部に接続して聞いている。ロー・バンドでは特にトータル・ゲインの不足を感じないが、ハイ・バンドではゲインが不足している。
そこで2SK241に換えてみたところ、かなり満足できるようになった。バンド毎にプリ・アンプを用意して切り替えると大げさになるので、トップに単同調回路を挿入してバンド・切り替えはチューンしなおすことにする。
ロー・バンドはJ310GGアンプ、ハイ・バンドは2SK241として、コイルはプラスチック・ケースに巻いてみる。
ロー・バンドは3.5MHz-10MHz、ハイバンドは10MHz-30MHzとすれば、周波数比は1:3となるので2つのコイルで事足りることになる。
周波数 | 出力電力 | 入力電力 |
1.8MHz | 3.80W | 2mW |
7MHz | 5.0W | 3mW |
10MHz | 5.0W | 9mW |
14MHz | 4.0W | 10mW |
28MHz | 5.0W | 50mW |
リニア・アンプは2SC1973+2SC1971PPの構成である。これらのトランジスターはすでにディスコンとなっており、新規に入手することは困難であろう。しかし、高ゲインなので少ない段数でリニア・アンプが構成できるため、手持ちがあったので採用した。
目標の出力は5Wであり、アンプ入力部にトータル13dBのアッテネーターを挿入して入出力特性を計測したら上図のようになった。
上述したリニア・アンプだけではジェネレーター出力を5Wまで増幅することは出来ないので、ポスト・アンプが必要となる。
さらにジェネレーター出力は上下のヘテロダイン信号を含んでいるので、BPFも必要となる。
Fig Aのようにジェネレーター出力のすぐ後にBPFを挿入した方が余計な信号を増幅しないので都合がよいが、バラックで試作したところ、発振してしまった。多分、電源ラインのデカップリングに問題がありそうである。
とりあえず、Fig Bのようにジェネレーター出力のすぐ後ろに2SC1906のポスト・アンプを置きBPFで2SC1973+2SC1971PPアンプと分離することにした。
Fig Bの構成で測定したら、28MHzと7MHzでは10dBものゲインの違いがあった。当然、28MHzの方がトータル・ゲインが低くなるので、28MHzで5W出力となるように調整すると7MHzではオーバー・ゲインとなるのでアッテネーターを挿入する必要がある。ALC回路でゲイン差を吸収したほうがスマートであるが、そのあたりのスキルはないので、BPFとアンプの間に結合用コンデンサーを入れ、その容量で調整することにした。
BPFはFCZコイルを2個組み合わせたものであるが、手持ちや取り外し品の再利用なので一部のBPFは各バンド専用のFCZコイルを使っていない。7MHzはFCZ5であるし、10MHzと18MHzはFCZ14、24MHzはFCZ28を使っている。当然、同調用のコンデンサーは適宜、変更してある。結合用コンデンサーの容量は同調用コンデンサーの1/10程度を目安にしてある。
BPFは7MHzから28MHzまでの7バンドを用意した。各バンドの切り替えはBPFの両端にリレーを置き、選択したバンドのリレーをONするようにした。ただし、写真では24MHzバンドにしかリレ−が実装されていない。
各バンド毎にLPFを用意したいが、コストの問題もあり、28MHz、21MHz、14MHz、7MHzの4バンドとした。24MHzは28MHzLPF、18MHzは21MHzLPF、10MHzは14MHzLPFを使うことになる。バンド切り替えはLPF両端にリレーを置き、選択したバンドのリレーをONするようにした。ただし、写真では21MHzバンドにしかリレ−、コイル、コンデンサーが実装されていない。
上述のテストではバラックのポスト・アンプを使っていたが、それを作り直した。なるべく広帯域でゲインを確保したかったので、2SC1906を使った。広帯域にするため出力側はトロイダル・コアを使用したトランスとした。
ポストアンプができたので、リニア・アンプ全体を仮組み込みしてみた。BPFは7MHz〜28MHzまでの7バンド分のリレーを組み込み、バンド切り換えは7ポジションのロータリー・スイッチとした。LPFはとりあえず、21MHz用をリレーを介さず、直接、同軸ケーブルで接続した。全体の構成はBPF-2SC1906-2SC1973-2SC1971PPとした。
LPFの出力側にダミーロードとオシロを接続し、ジェネレーターから信号を入力してBPFの調整を行った。当初、14MHzと18MHzで出力が得られなかったので、BPFを点検したところ、半田付けの不良箇所やブリッジが何ヶ所か発見された。7バンド分のBPFをリレーで切り換えるのは初めての経験であり、プリント基板もパターンをエッチングしたわけではなく、彫刻刀で銅箔面を削り取ったものなので、こんなものであろう。
21MHz用LPFであるが、24MHzまでは何とか調整することができた。28MHzの調整は28MHz用LPFを組み込んでからである。事前のテストで7MHz〜14MHzではゲイン・オーバーが分かっていたので、BPFの出力とポストアンプの入力の間にゲイン調整用のコンデンサーを挿入してある。これで7MHz〜24MHzまで5W強の出力が得られた。シングルトーンの波形も7MHzだけはちょっぴり歪んでいるが、7MHz専用のLPFを組み込めば解消されるはずである。
LPF基板に全てのバンドのコイルとコンデンサーを実装し、ロータリー・スイッチで切り換えるようにした。本機は実験用途にも使うので、BPFとLPFの切り換えスイッチを別々とした。BPFスイッチのみでLPFを切り換えたい場合は、ダイオード・マトリックスを使えば簡単に実現できる。
全バンドのLPFを装着したので、28MHzの調整を行った。しかし、ほとんどパワーが出てこない。リード線でBPFをバイパスすると10W程度が得られたので、BPFのトラブルである。基板を外して点検したら、切り換え用リレーの端子が半田付け不良であった。これでようやく7MHzから28MHzまでの7バントで5Wが得られた。
下がエキサイター、上がフロント・エンドとリニア・アンプである。受信と送信の信号ラインは同軸ケーブルで接続する。電源関係は12V、T12V、R12V、Keyed12Vをコネクターと3.5mmステレオ・プラグを使用して接続している。
CWのキーイングは2SC1906ポストアンプの電源ON OFFで行っている。
フロント・エンド、リニア・アンプ部のコントロールは上列左からBPF切り換え、出力モニター、フロント・エンド同調、その右にプリ・アンプ切り換え、同調容量切り換え、下列中央はLPF切り換えである。
出力モニター用のパワー・メーターを追加した。使用したメーターは小型のラジケーターで、整流用のダイオードはジャンク出身であるが多分、Geダイオードである。感度は入力側のトリマ・コンデンサーとメーターにシリーズに入っている半固定抵抗で調整した。
マイク端子に2toneジェネレーターを接続し出力波形を FFTによるスペクトラム観測でチェックしてみた。 ところが、あまり芳しくないので、どこに問題があるのかを調べるために各増幅段の波形を観測した。
これはジェネレーター出力の7MHz波形である。3rdIMDは40dB以上、確保できている。
これは上記波形をBPFを通し、2SC1906で増幅した波形である。増幅したことによる劣化は特に認められない。この段階での出力レベルは数dBm程度となる。
これは上記波形を増幅し100mW程度までアップした波形である。さすがにここまで増幅すると3rdIMDは劣化し30dB程度となっている。
これは5W出力の波形である。当初はもっと酷かったが、ファイナルの2SC1971ドライブ回路の入力インピーダンス比を4:1から9:1に変更し、ここまで改善したが、それでもまだまだ、改善の余地がありそうである。ただし、CW(シングル・トーン)の波形は全く問題ない。
ファイナルの2SC1971ドライブ回路を少しいじってみた。入力トランスをFB801-43を4個、組み合わせたものに換えてみた。また、前段の2SC1973との間に2dBのアッテネーターを挿入した。
これがその波形であるが、上記の波形とどっこいどっこいといったところであろうか。 測定方法は上記波形と同じであるが、どういうわけか測定条件が微妙に違っているようである。
ドライバー段とファイナル段の間にアッテネーターを挿入したので、目標の5Wには届かなかった。各バンド毎のCW出力は以下のとおりである。
BAND | 7MHz | 10MHz | 14MHz | 18MHz | 21MHz | 24MHz | 28MHz |
OUT | 4.5W | 6.5W | 4.5W | 5.0W | 3.5W | 4.0W | 3.0W |
フロント・エンド/リニア回路図 allsch.gif 23kB