汎用トランシーバーの製作
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フィルター

使わなくなって久しいトリオ TS-530Sを解体してそのパーツをHF 811A Linear AMPに転用した。もちろん、SSB用とCW用のフィルターはしっかりサルベージしておいた。
このトリオのフィルターを使って汎用トランシーバーを製作してみたいと思う。基本となる受信部IF、SSBジェネレーターを一まとめにし、必要に応じてコンバーター部を組み合わせる方式するつもりである。今回はデジタル・モードにも対応したいと考えている。 当然、500Hz帯域のCW用フィルターも装備して切り替えるつもりである。

DBMs

コンバーターやSSBモジュレーターにはDBMを使う予定である。ヨコハマミニサーキットから通販で購入した。

IF Section

2007年12号のQST誌に「The Hybrid Cascode - A General Purpose AGC IF Amplifier」なる記事が掲載された。筆者はかのW7ZOIとWA7MLHである。
これは左図のような回路を3段組み合わせたIFアンプで、FETとNPNトランジスターを組み合わせたカスコードとなっている。入力のインピーダンス・マッチング回路は9MHz用となっている。
最近は電池管1T4を使ったIFセクションしか作っていなかったので、たまには趣向を変えて半導体をいじってみたいと思っていた。半導体のIFというとデュアルゲートMOSFETや ICのMC1350Pを使ったものが思い浮かぶが、このような回路は初めてお目に掛かった。 この程度の回路であれば、プリント基板を起こさなくてもベタアース、ランド、空中配線で作れそうである。
この記事の詳細は下記を参考にされたい。

http://w7zoi.net/hycas-pcb.html

2N3904は汎用のNPNトランジスターなので2SC1815あたりで代用できると思う。問題はJ310で国産の2SK125 としたいが、データシートで確認するとJ310の方が高ゲインである。2SK125は手持ちがあったが、J310を国内の販社から通販で入手した。

VFO

汎用トランシーバーなので、モノ・バンドというわけにはいかない。 使用するフィルターが8831kHzなので、上側ヘテロダインのシングル・コンバージョンとするとHF帯をカバーするためには40MHz程度までの局発が必要である。秋月のDDSとSYTECのDDSコントローラーの組み合わせが好きであるが、残念ながら今回の用途には向かない。
貴田電子から出ているKEM-DDS-VFO-MC180が使えそうである。実はすでにKEM-DDS-VFO-MC50を使っているが、ロータリーエンコーダーを使うと取りこぼしが発生するという不具合がある。しかし、他に選択肢もあまりないので、通販で購入して組み立てた。

キャリア発振

トリオのフィルターを使い、上側ヘテロダインのシングル・コンバージョン構成とするとキャリア発振は

USB 8831.5kHz
LSB 8828.5kHz
CW(R) 8831.5kHz
CW(T) 8830.7kHz

が必要となる。
今回は手抜きして、TS-530SのPLL基板を金ノコでカットしてキャリア発振部を取り出した。カットした基板にはキャリア発振部以外の回路あったので、それらを構成するパーツを除去して整備した。
この基板も製造後、30年近く経っているが、電源を接続して発振周波数をチェックすると低めでトリマで調整しきれない。トリマに並列に入っている22pFの固定コンデンサーを外すことで、ようやく調整することができた。
ただし、出力がオリジナルでは1mW程度なのでDBMを駆動するためには軽くアンプする必要がある。

Filter Section

フィルター・セクションである。フィルターの切り替えは汎用の小型リレーを使用した。入力側はインピーダンス比1:9でステップ・アップして500オームでターミネートしてある。 出力側も500オームでターミネートしてある。

フィルターの特性を計測してみた。SSB用フィルターは少々、リップルがあるがこの程度ならば、問題なく使用できそうである。CW用はきれいな特性となっている。これらのフィルターは製造後、少なくても25年程度は経過しているが、立派なモノである。

構成

構成は上側ヘテロダインのシングル・コンバージョンとなる。送受信のRFアンプ、TXアンプを工夫すればゼネラル・カバレッジとなるが、とりあえず、受信部のMIX〜AFまでを製作する。

バラック・セットその1

1段分のみであるがIFアンプを試作してみた。ローカル発振、キャリア発振、フィルター・セクションはすでに製作済みであるので、AFセクションがあれば受信機の要素は揃うことになる。
AFセクションは「無線機の自作」で使ったものを引っ張り出してきた。 ただし、フロント・エンドはなしでアンテナを直接、DBMに入力することにした。RFなしIF1段のみのスーパーである。
アンテナ・チューナーを3.5MHzにチューンして接続すると国内外の信号が確認できた。全体的にゲイン不足であるが信号は素直で 聞きやすい。ただし、ロータリー・エンコーダーを回すとノイズが発生してしまう。 7MHzでは、ロータリー・エンコーダーのノイズは感じられないので、調べてみた。
ローカル発振に使用している KEM-DDS-VFO-MC180 のスタート表示周波数を7MHzに設定してあるが、7000kHzを境にそれ以下ではロータリー・エンコーダーを回すとノイズが発生するが、7000kHz以上はノイズはでない。どうやら制御プログラムの関係でノイズが発生するようである。スタート表示周波数を3.5MHzに変更すると、今度は3.5MHz以下でノイズが発生するようになった。スタート表示周波数を受信したい一番低い周波数に設定すればとりあえずはOKのようである。
18MHz、21MHzで現用自作機と聞き比べてみたが、現用自作機で聞こえる信号は、バラックセットの本機でもそこそこ聞こえる。RFなしIF1段のみでこれほど聞こえるとは驚きである。

バラック・セットその2

DSBをどのような方法で作るか悩ましいが、今回は安直にDBMを使うことにする。例によってバラック・セットを作ってデータを採ってみる。
マイクアンプであるが、適当なOPアンプICの手持ちがなかったので、パワー用ICであるLM386を使ってみた。DBMはMCL TAK5でキャリア部は9MHzの水晶を使って作った。

マイクに1kHzのシングル・トーンを入力してFFTによるスペクトラム観測でキャリア・サプレッション等を計測してみた。かなり適当な配置であるが、それでもキャリア・・サプレッションは40dBを確保できている。市販のDBMを使っているので調整箇所はないので、これ以上のキャリア・サプレッションを得ることができるかどうかは不明である。

VOX

VOXを製作するのは初めてである。何故、VOXかと言うとこのトランシーバーでデータ通信をやりたいと思っている。データ通信はパソコンのオーディオ入出力をマイク端子とスピーカー端子にに接続する方法を考えている。
その場合、送受信切り替えはVOXでやる方法が一番、簡単であるので、VOX回路をいろいろと探してみた。ディスクリートで組んだ回路やOPアンプを使った回路が見つかり、その内、OPアンプを使った回路を試してみたが、うまく動作しない。
さらに探すと専用ICのNJM2072を使用した回路が見つかり、試作したところ、さすが専用IC、一発で動作した。この回路では入力15mV程度でリレーがONする。

ケース

本機はジェネレーター部とアンプ部を分離して製作し、ラックに収める予定である。とりあえず、ジェネレーター部用としてシャーシーにパネルを立てたものを作った。シャーシーはW25cm*H4cm*D20cmであり、パネルはW30cm*H10cmである。シャーシーはW30cmのものを5cmカットしてある。

SSBの試験

今回はSSBを作ってみた。マイクアンプ、DBM、2SK241_IFアンプ、フィルターを組み合わせてある。 IFアンプは仮であり、作り直す予定である。

マイクに2・トーンを入力してFFTによるスペクトラム観測で観測してみた。キャリア・サプレッションは40dBであるが、3次IMDはフロアー・ノイズ以下で、-40dB以上は確保できていると思われる。

マイクにパソコンのオーディオ出力を接続し、RTTY 通信ソフト MMTTYを立ち上げてAFSK送信した波形である。Mark 2121Hz、Shift170Hzとなっている。

マイクにパソコンのオーディオ出力を接続し、通信ソフト MMVARIを立ち上げてPSK送信した波形である。Carrier 1729HzkのBPSKで、サイドが広がらないようにマイクへの入力レベルを調整してある。

上記と同じPSK送信した波形であるが、マイクへの入力レベルを過大にした。サイドが広がっている様子が分かる。AFSKでデータ通信を行う場合、レベル管理が重要なようである。

SSBのまとめ

試験では2SK241のアンプを使ったが、本番ではJ310パラのGGアンプをSSBフィルターの前後に配置してみた。これで1-2mW程度のSSB出力が得られる。

マイクに2・トーンを入力してFFTによるスペクトラム観測で観測してみた。出力は2mW程度である。3次IMDは、なんとか-40dB以上、確保できている。

これは807を使ったCW送信機を改造したA級 Linear AMPを接続して1Wまでパワーアップしたスペクトラムである。3次IMDは、若干、悪化して-40dB弱といったところである。

SSBの波形あれこれ

J310パラのGGアンプの後段に2SC1906のアンプを接続して10mW程度まで増幅した。 これに手持ちのリニア・アンプ類を接続して波形を観測してみた。電源用FETを使用したリニアの2トーン波形は初めて観測したが、そんなに悪くないようである。

807を使ったCW送信機を改造したA級 Linear AMPを接続して5Wまでパワーアップしたスペクトラムである。3次IMDは、-20dB程度といったところである。

上記の807リニアにHF 811A Linear AMPを足して24Wにしたスペクトラムである。3次IMDは、悪化していないが、サイドが広がっている。

これは2SC2024-2SC2078PPリニアを接続して5Wまでパワーアップしたスペクトラムである。3次IMDは、-30dB弱が確保できているが、807と比べると3次IMDは良いが、サイドが広がっている。

上記の2SC2024-2SC2078PPリニアに2SK3563PPリニアを接続して40Wまでパワーアップしたスペクトラムである。サイドが広がっている割には、3次IMDは-30dB弱が確保できている。

IF Section の製作

3段増幅IFセクションとAGCアンプ部を製作してみた。このIFセクションは広帯域アンプとなっており、同調回路がないのが特徴である。フィルターで切ってあるが、帯域外の信号も増幅することになり、これがどのように影響するか興味のあるところである。

受信部の試験

3段増幅IFセクションが出来たので、とりあえず受信部としてまとめてみた。AFアンプはLM386で製作した。RFアンプなしでANT入力は直接、DBMへ接続される。アンテナ・チューナーで同調をとり、3.5MHz〜21MHzの各バンドを聞いてみた。10MHzあたりまではこの状態でもそこそこ聞こえてくる。しかし、さすがにハイ・バンドはゲイン不足である。
AGCの効きも悪くないが、現用の自作無線機と比較すると受信音がイマイチである。AFアンプだけの問題なのか、それとも全体的な問題なのか切り分ける必要がある。また、LSB、USBを切り替えるとノイズの音質が変化する。USBの方が歪みっぽいようである。同調回路なしの3段IFアンプなのでノイズを心配していたが、そちらの方は全く問題なかった。


やはり全体的にゲイン不足であったので、プロダクト検波とLM386アンプの間に2SC1815を使用した電圧比20倍のプリ・アンプを挿入してみた。これで音量的にも現用機と同レベルとなった。
この状態で 2種類の外付けプリ・アンプを試してみた。一つは2SK241のソース接地で21MHz専用、もう一つは2SK125パラのGGで入出力に同調回路がない広帯域アンプである。21MHzで聞き比べてみたが、2SK241の方がゲインがあるが、2SK125でも行けそうである。他のバンドは2SK125のみであるが、感度的には現用の自作無線機と同レベルであった。
フロント・エンドはお手軽にするならば、LPFだけで切って広帯域の2SK125パラGGアンプという手もありそうである。

コントロール回路

本機のモードはCW、USB、LSBの3ポジションとし、ロータリー・スイッチで切り替える。その他のコントロールはAGC_ON_OFF、FILTER_WIDE_NARROW、VOX_ON_OFFでスナップ・スイッチで切り替える。
キャリア発振はTS-530Sの基板を流用したが、CW(T) 8830.7kHzを作る場合、基板のLSB端子とCW端子に電圧を掛ける必要があり、そのための回路も組み込んである。

デジタル・モード用AFアンプ

パソコンと接続してPSK等のデジタル・モードに対応するためには、専用のAF出力があった方が何かと都合がよい。2系統のAF出力があれば、スピーカーで音声を確認しながらチューニングが可能となる。
デジタル通信用のAFアンプはOPアンプを使い、初段で100倍増幅し、LPFを組み合わせたモノである。この出力をパソコンのAF入力に接続し、MMVARIを立ち上げて7MHzのPSKを聞いてみた。ゲインも十分で残留ノイズ・レベルも低く、音声で確認できない信号も問題なくコピーできた。

S-Meter

http://w7zoi.net/hycas-apps.htmlで紹介されていたS-Meterユニットを製作してみた。電流計は手持ちのラジケーター(数百uA)としたためシリーズに入っている感度調整用の抵抗を10kオームの半固定抵抗とした。穴あき基板で作り、シャーシー内に押し込んだ。

トラブル・シューティング

モードを変えるとSメーターの0点が変化する。CWとUSBは変動しないが、LSBにするとメーターが右側に振れてしまう。局発(BFO)の漏れが直接、IFアンプに混入していることを疑って局発(BFO)への電源供給を外したが、解決しない。
モードを変えるとリレーへの制御線も切り替わるが、このラインがノイズを拾ってAGCラインの電圧を変化させているようである。各リレーのコイル端子には逆起電力防止用のダイオードを接続しているが、これと並列に0.01uFのセラミック・コンデンサーを追加したら解決した。

そのSメーターであるが、弱い信号では全く振れず、強い信号では振り切れてしまうという体たらくである。AGCラインの電圧を測定すると無信号から中程度の信号では7V程度で変化せず、強い信号が入ると一気に3V程度まで低下することがわかった。AGCアンプにスレッショルド・レベル調整用として270オームの抵抗が入っているが、これが小さすぎるようである。
この抵抗を可変抵抗に置き換えて弱い信号の変化でもAGCラインが反応するように調整したところ、概ね無信号時にAGCラインの電圧は5.8V程度となった。
これでようやくSメーターも振れるようになったが、このスレッショルド・レベルの調整はかなりクリチカルである。さらに電源をON-OFFするたびに微妙にずれてしまうため、最終的には1N4138に100オームの半固定抵抗と組み合わせて調整できるようにした。

トラブル・シューティングその2

現状のブロック・ダイアグラムである。この状態では受信部のプリ・アンプはないが、 ロー・バンドでは全く問題なく受信できる。受信部が大体OKとなると実際に使ってみたくなる。
外付けの送信用ポスト・アンプ(2SC1906)に手持ちのリニアアンプを2段追加して、バラックではあるが送信部も用意し、トランシーバーの構成としてみた。

この構成でCWQSOをしてみたが、送信から受信に移る際、AGCが深いままで、頭切れを起こしてしまう。ところがAGC-OFFではこのようなことはない。回路図を検討してMUTEからAGC-OFFの間をダイオードでショートしたところ、解決した。

まとめ

とりあえず、ジェネレーター部は完成した。上図のブロック・ダイアグラムのとおり、受信部はRFなしでIF3段、送信部は-数dBm程度であるが、HF・BAND・SSB/CWトランシーバーとしての機能は揃っている。
ラック・ケースの上部へはフロント・エンド、リニア・アンプを収納する予定である。
左上から右へ、送信、受信用BNC端子、Sメーター、Sメーターの下はAGC_ON_OFF、VOX_ON_OFF、FITER_WIDE_NARROW、RIT、SEL、その右は表示部、メインダイアル。
下左から右へPOWER、MIC、KEY、DATA、PHONE、MODEIF_GAIN、AF_GAINとなっている。

左上から右へ、フィルター・セクション、IFセクション、キャリア発振。
左下から右へMIXERセクション、DDSVFO、VFOアンプとなっている。

内部は左上から右へ、マイク・アンプ VOXセクション、AFセクション、5Vレギュレーター。
下中央はコントロール・セクション サイド・トーン、その右はSメーター・アンプ となっている。

全体回路図 sch.gif 50kB

汎用トランシーバーの製作その2へ続く

汎用トランシーバーの製作その2では受信部フロントエンド、 送信部BPF、リニア・アンプ、LPFを製作してマルチバンド対応の5W SSB/CWトランシーバーとしてまとめてみます。

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Last Updated 22/May/2009