無線機器、特にトランシーバーや送受信機の自作は、それらの機器を使って実際の交信ができるという醍醐味がある。ところが、これらの機器を自作する際、どうやって必要とする周波数帯をカバーするかという問題が常につきまとう。アマチュア無線では運用できる周波数はある幅をもっており、その中を自由に行き来することができなければ、交信相手を捜すことも、交信することもできない。
最新の無線機はCPUで制御されたPLL、DDS等の技術を使って、安定な周波数を作り出しており、ダイアル操作でそれを可変できるようになっている。このような発振器はデジタルVFOと呼ばれており、無線機の心臓部といっても言い過ぎではない。これらのデジタルVFOを製作するためには高度なデジタル、アナログ技術さらにはソフトウェアーのプログラミング技術まで必要とする。
自作愛好家の中にはメーカー製と同様な性能を持つデジタルVFOを一人で作り出してしまう人もいるが、その数は限られている。それでは、私のような普通の自作マニアはVFOをどうするかというと、水晶発振器を無理やり可変するVXOや、昔ながらのアナログ式VFO(LC発振器)でお茶を濁すこととなる。
VXOはそれなりに安定だが、可変範囲が狭いという問題があり、アナログ式では可変範囲は自由に選べるが、安定性の問題が常につきまとう。さらに、VXOやアナログ式VFOではバリコンを回転させて周波数を変化させるが、バリコンを減速させるための精度の良いギャーダイアルを入手することは絶望的であり、VFOに使えるバリコン自体も入手が困難となっている。最近のデジタル技術の進歩により、これらのアナログ用のパーツは市場から駆逐されてしまっているのが現状である。
そのような時に、ARRLの機関誌QSTに非常に興味のあるキットの記事が紹介された。早速そのキットをアメリカから通信販売で取り寄せて製作してみた。取り寄せたキットは発振器の発振周波数を測定し、それが変動したら制御をかけるというもので、PLLともDDSとも違う方式であった。
キットはメインボード、ディスプレイボード、制御電圧発生ボードの3枚で構成されている。メインボードにはマイコンが内蔵されたLSI(PIC)が載っており、これで周波数の測定・制御を行う。ディスプレイボードには周波数表示ディスプレイと操作用スイッチがあり、制御電圧発生ボードはメインボードからの信号を受けて電圧制御発振器(VCO)への制御電圧を出力する。ただし、このキットにはVCOが入っていないので、別に用意する必要がある。
VCOはアナログVFOそのものである。バリコンの代わりに印可電圧により、容量が変化するバリキャブダイオードを使用した発振器であり、制御電圧発生ボードからの電圧をVCOのバリキャップに印可すると周波数制御ができることになる。キットは
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から通信販売で購入した。キットが79.95ドル、ロータリーエンコーダーが22.95ドルであり、クレジットで支払うことができる。ダイアルとなるロータリーエンコーダーも併せて購入した方が良いだろう。当初、ロータリーエンコーダーは秋葉原で簡単に入手できると高をくくっていたが、結局目的に合うものが見つからず、発売元へ問い合わせ、通信販売で再度購入する羽目となった。
キットの製作は部品点数もそれほど多くなく、マニュアルに従って進めば何ら問題はない。目的とする周波数帯のVCO製作の方がかえって大変であろう。今回はIF9MHz のSSB/CWジェネレーターにVFOを組み合わせて、21MHzのトランシーバーを製作する予定なので、VCOの可変範囲は下側にとって12.0〜12.5MHzとして計画した。
VCOは作り慣れているアナログVFO回路をアレンジして作ることにした。このVFOはトロイダルコアに巻いたコイルとポリスチロール・コンデンサーで共振回路を形成している。このコイルとコンデンサーの組み合わせは温度係数がプラスとマイナスなので温度による容量変化をキャンセルできるようになっている。
今回はバリコンではなく、バリキャブダイオードで発振周波数を変化させるので、ダイオードの特性表から電圧―容量特性を調べた。共振周波数算出式は表計算ソフトに入れてあるので、電圧―容量特性から調べた容量から簡単に周波数範囲が算出できる。あとは、トロイダルコアにエナメル線を巻いてインダクターを作り、VCOに仮接続して発振周波数を周波数カウンターで測定する。バリキャップダイオードに印可する電圧を変化させ、周波数範囲のデータをとると500kHz弱の幅となった。21MHz帯は21.000MHzから21.450MHzなのでちょうど良い。
キットで作ったコントローラーとVCOを組み合わせて試験する。このデジタルVFOの機能としては、A、Bチャンネルの切替、RIT、4桁のデジタル表示等がある。さらに、周波数表示のオフセットが可能であるので、VCOの発振周波数ではなく、トランシーバーとしたときの実際の運用周波数表示が可能となる。今回の場合ではVCOが12.0000MHzのときに21.0000MHzと表示することができる。ただし、4桁なので21.0と000.0を切替えて表示するので、最小桁は100Hz表示となる。
マニュアルに従ってコントローラーの設定を行う。設定はEEPROMにロータリーエンコーダーを使って書き込めるようになっている。通常の使用ではオフセット表示の設定だけでOKである。
コントローラーの仕様では発振周波数が±10Hz以上変化すると、偏差を解消する方向にVCO制御電圧が出力されることになる。別に1Hzまで測定可能な周波数カウンターを接続して、周波数変動を観察すると目的周波数に対して±10Hzに収まっていた。
アナログVFOでは電源投入時の初期変動がかなりあるが、試験VCOはコントローラーによるフィードバックが効いているので初期変動がほとんどでない。発振周波数を受信機でモニターするとデジタル回路からのノイズで変調されていた。VCOの制御ラインにフィルターを挿入し、試験セットを片面の生プリント基板上に仮配置したらかなり改善された。ケースに組み込んでトランシーバーとする際にはアー
スラインの引き回しやシールドに注意が必要であろう。ロータリーエンコーダーは早く廻すと周波数ステップが早く変化し、ゆっくり廻すと10Hzステップで操作できるので、使い勝手は良さそうである。
このコントローラーキットの優れているところは、発振周波数が50MHz以下であれば、任意のVCOと組み合わせてデジタルVFOが作れるということである。これにはプログラミング技術も要求されないので、私のようにデジタル系が苦手なものにとっ
ても簡単にデジタルVFOが自作できる。周波数表示のオフセットも可能であるので、トランシーバー自作に必要な局発、周波数表示機能を簡単に実現できることになる。
デジタルVFO仕様(VCOとの組み合わせ)
発振周波数 11.968MHz〜12.470MHz
出力 60mW(13.8V)
周波数制御精度 ±10Hz
試験セット。左から制御電圧発生部、メイン基板、12MHz台VCO
手前左はディスプレイ部(12.1007MHzを表示中)、
その右はロータリーエンコーダー
VCOの回路図