所属クラブの文化祭で「無線機の自作」と題して講演を行った。講演のテーマはなるべく簡単な構成である程度、実用となる無線機の製作である。
その講演の内容に沿った無線機をバラックセットであるが製作してみた。
簡単な構成の無線機でQSOできるとなるとやはりCWである。バンドはQSOの相手が多い7MHzとし、出力は5W程度とした。5WはQRPの範囲であるが、CWならばストレスなしでQSOできるし、このあたりの出力であれば作りやすい。
無線機の自作で問題となるのは局発やVFO等の発振部である。最近、非常に便利なDDS-VFOのキットが発売された。しかもマイコン付きのキット一式で5,000円台というリーズナブルな値段である。秋月のDDSキットは本体だけでも6,400円もするし、VFOにするためのコントローラーは別途用意する必要がある。
このDDS-VFOキットのみで送受周波数やシフト等の設定が可能であるので、受信時にはIF分をシフトして局発にし、送信時にはCW送信部のVFOにするようなことが簡単に出来る。
私も秋月のDDSを使ってこのような機能を持ったVFOを作り、無線機に応用したが、それが簡単に実現できてしまう。
発振部はこれで決まりであるので、送信部はパワー部だけをつくればりっぱな送信機となる。問題は受信部であるが、一番簡単なダイレクト・コンバージョン方式とした。
これらを簡単なモジュールにしてそれらを組み合わせて無線機(トランシーバー)を自作しようというわけである。
貴田電子設計のDDS-VFOのキット
これはマスタークロック50MHzのAD9834バージョンである。同様なキットでマスタークロック180MHzのAD9851を使用したものもある。本体だけで周波数、シフト等の設定が可能である。
DDS-VFOだけの出力は1mWもないので、2SC1906のポストアンプで増幅する。DDS-VFOとの接続部のコンデンサーで出力が10mW程度になるように調整してある。
ダイレクト・コンバージョンの構成は簡単で、フロント・エンド、局発、MIXER、AF増幅部があればOKである。フロント・エンドはトイレット・ペーパーの芯に巻いたコイルを使った。とりあえず、各モジュールを接続して7MHzのCWを受信してみた。当たり前であるが、フィルターが一切ないので、いろいろな信号が混信を伴い入感するが余計な増幅部がないので、信号自体はきれいに聞こえる。
ところが40mバンドの短波放送が通り抜けてしまう。昼間でもこの調子なので夜間は強力な信号にマスクされてしまい、とてもではないが使えたものではない。
このあたりは以前、再生検波を試した時に実感していた。今回、この構成でなんとかQSOしようとしたが、残念ながら果たせなかった。構成は簡単だが、これでQSOしようとするとかなりのスキルと忍耐が必要となり、あまりにも実用的ではない。
ここで時間切れとなってしまい、送信用のアンプとコントロール回路を大急ぎで作り、トランシーバーにまとめて、講演会で展示した。
しかし、ある程度、実用となるという部分が欠落したままでは面白くないので、次項のように発展させてみた。
このようなダイレクト・コンバージョンの欠点を補う方法としては、IQの2値信号化してAFフィルターと組み合わせるいう手もある。こちらはすでにキットで体験済みなので、オーソドックスにIFに変換してフィルターを挿入することにした。
早い話がスーパー・ヘテロダインにするわけであるが、IF段でゴデゴテと増幅やらAGCとなると普通の受信機と変わらなくなるので、IFはフィルターとDBMのロス分補償に軽く増幅するだけに止めた。
フィルターは455kHzでもOKであるが、キャリーアー用水晶も手持ちがあった11.2735kHzのSSB用フィルターを使用した。
フィルターとDBMのロスが計10dB程度となるので2SK125のソース接地で軽く増幅したが全体のコンセプトはダイレクトコンバージョンのままである。
7MHzを11MHz台のIFに変換すると局発は4MHzとなる。しかも、受信周波数を上げるとVFOの発信周波数は逆に下げる必要がある。このDDS-VFOには表示周波数とは逆に発信周波数を下げる機能がついているので、本機のような周波数構成の場合は非常に具合がよい。さらに送信時には7MHzを直接、発振できるので簡単にCWトランシーバーが構成できる。
現用トランシーバーとアンテナを切り替えて受信能力を比較してみた。当たり前であるが、本機の方が全体的にゲインが不足している。キャリアをLSBにしたので7MHzSSBも受信できるし、CWもそれなりであるがOKである。
局発に使用したDDS-VFOには10MHzLPFしか入っていないので、下側ヘテロダインの範囲で1MHz〜10MHzが受信できる。
しかし、ゲイン不足はいかんともしがたい。でも、これ以上、増幅回路を追加してしまうと普通の受信機と変わらなくなってしまう。そこで、AFアンプの段間に1k:10kのトランスを挿入した。インピーダンス比が1:10なので電圧比では約1:3となる。これでかなりゲインがかせげたが、それでもまだ不足気味であったので、IFアンプの2SK125を2SK241に換えてみたら、かなり良い感じとなった。この状態で現用トランシーバーと比較すると感度面では遜色なくなった。
フロント・エンドのコイルはプラスチック・ケースに巻き直した。シャーシーはかれこれ35年以上も使っている。
簡単な構成の「無線機の自作」としてスタートしたプロジェクトであるが、やはり受信部が難関であった。ダイレクト・コンバージョンは簡単で聴感的には良いフィーリングであるが、混信と通り抜けが問題となり、実用的とは言い難い。
本機のように一旦、IFに変換してスーパー・ヘテロダインにすると通り抜けは回避できる。混信対策はやはりフィルターとなるが、そうなるとゲインが不足してしまう。それを補うために増幅したり、AGCを掛けたりすると普通の受信機になってしまう。
ダイレクト・コンバージョン受信機の持つ素直なフィーリングを損なわないで、ある程度実用的な受信部とするためには、やはりこのあたりとのトレードオフとなるようである。IFアンプは2SK241よりも2SK125の方が好ましいが、やはり聞こえないのもいやなものである。
無線機としてまとめるためにはまだ送信部アンプ、LPF、サイドトーンが必要である。でも、ここまでやると当初の「簡単な構成」の「無線機の自作」とは言い難くなってくるのだが。
外付けの5Wリニア・アンプを接続してQRVしてみたが、7MHzCWで問題なくQSOできた。
ところで、これをきれいに作り直すかどうか決めかねている。チューニングしたせいで感度は現用トランシーバーと良い勝負である。しかし、フィルターがSSB用なのはいただけないが送信部にLPFを追加すれば、1.9〜10MHzのCWトランシーバーになりそうである。
当初はスナップ・スイッチで送受信切り替えをしていたが、やはり面倒である。セミ・ブレーク・イン回路を追加した。
KEYED 12VはDDS-VFOのポスト・アンプ2SC1906へ供給される。
その後の顛末は「無線機の自作」その2でご覧ください。