1943年製の米軍用高2中2受信機BC-312N
右上のスナップスイッチにCW-OSCの表示がある
CW-OSC(BFO)のON-OFFスイッチ、右上のつまみが発振周波数調整
アマチュア無線ではCWという言葉はよく使われますが、ところでCWには一体どんな意味があるのでしょうか。一般にCWはモールス符号を使った無線電信の意味で使われているのは、みなさんがよく承知のことです。電信でQSOした場合、QSLカードの電波形式の欄には、CWと記入しますし、そのようなカードを集めてアワードを申請すれば、アワードにもCWという文字が特記として書かれてきます。
ところでCWの語源について、みなさんは知っていますか。CWとは「Continuous
Wave」の略です。「Continuous Wave」には「継続した波」という意味がありますが、これには電信やモールス符号を意味する内容は含まれてはいないようです。それがどうして電信を意味する言葉となったのか不思議とは思いませんか。
1990年版ARRLのハンドブックに以下の記述を見つけました。
Continuous-wave Morse Telegraphy Telegraphy by on-off keying (OOK)
of a carrier is the oldest radio modulation system. It is also
known as CW ( for continuous wave ). While CW is used by
amateurs and other communicators to mean OOK telegraphy by Morse
code.
正しく私たちが使っているCWの説明そのものです。ここにはCWは電信の意味で使われていると書いてあります。でも何か変ですね。タイトルは「継続した波のモールス符号による電信」となって
おり、「continuos wave」が直接、電信を意味はしていないようです。ますます謎が深まるばかりです。
ところで「継続した波」とはどのような波のことでしょうか。当然、無線用語ですので、波と言えば無線周波数に使われている波のことだと見当がつきます。別の資料でContinues
Waveを探してみると、1929年ARRLハンドブック復刻版
(約70年前)に、これについての記述がありました。無線通信初期の時代には、無線電信に使用する高周波エネルギー源として高電圧をスパークさせたものを使っていました。いわゆるスパーク(火花)送信機です。
ところがこのスパークによる発振は、その振幅がすぐに減衰してしまい、安定した発振とはいいがたいもので、これを「Damped
Wave」と呼んでいました。その後、真空管が発明され、その発振動作により、初めて振幅の安定した高周波エ
ネルギーを得ることができました。これが「Undamped
Wave」、別名「Continues Wave」であると解説されています。
これで、「Continues Wave」とは、私たちがキャリアー(搬送波)と呼び、電波形式ではA0となる、ごく普通の水晶やLCの発振回路で得ることができる高周波エネルギー
だということがわかりました。キャリアーをモールス符号により断続したものは、電波形式ではA1となり、いわゆるCWとなります。しかし、依然として電信やモールス符号との関わりについては不明です。
アメリカでは1920年代に、それまでアマチュアに使用が許されていた火花送信が禁止されました。火花送信は、簡単に言うと電気スパークによるノイズで、無線交信をしているような
ものです。無線局が多くなってくれば、お互いにQRMをまき散らしているような状況となり、混信が深刻な事態となったことは容易に想像できます。真空管の普及も手伝い、無線通信に使用するできる高周波エネルギーは「Continuous
Wave」だけとなり、「Damped Wave」は禁止されてしまいました。
ところで、別の資料によるとアメリカにおいて、アマチュア無線に電話(AM)が許可されたのは1930年であることがわかりました。この当時のアマチュア無線はすべて電信によるものだったようです。
以上まではわかったのですが、無線電信がなぜCWと呼ばれるようになったかの確証はありません。1929年から5年後の1935年ARRLハンドブック復刻版に載ってる高一中二スーパー受信
機の回路図には、BFO(Beat Frequency Oscillator)のことをCW
OSCと書いてありましたので、この頃には一般的な名称になっていたようです。1934年の別の資料に、送信機回路図のタイトルが「Details
of C.W. "Code" Transmitter」
となっているのもありました。当時のアマチュア通信は、ほぼ全てが電信によるもので、「Continues
Waveによる無線通信」すなわち、CWとなったのではないかと想像しています。
私の所持している第2次大戦中の米軍用受信機(1943年製)には、受信モード切り換えスイッチにはCW-OSCと表示がしてありますので、この当時にはプロアマ問わずCWは
無線電信のことであると完全に定着していたようです。
最後に、これは小説からの受け売りですが、昔のアメリカでは無線通信士のことはなんと呼ばれていたかわかりますか。正解はスパーキーです。もちろんスパーク(火花)送信機のスパークから来ています。
この文章は10年ほど前、所属クラブの会報に掲載するため書いたものですが、2005年1月号QSTにこれに関連する記事を見つけました。The Crystal Set by Bob Shrader W6BNBがその記事です。
火花送信機の時代、真空管が一般的になる前の受信機には鉱石検波が使われていました。もちろん、真空管は存在しませんのでいかなる増幅回路も持っていません。同調回路、検波、受話器(イヤーフォーン)だけです。例えば、この受信機でCW(A1)を受信したらどうなるのでしょうか。CWはキャリアーの断続だけなので、鉱石で検波したとしても人間の耳に聞こえる周波数の成分は存在しませんので、これでは通信できないことになります。
ところが、当時はこれで十分に通信できていました。それは送信機の方に問題があったからです。実は火花送信機は結果的ですが、人間の可聴周波数で変調されていました。もちろん、普通のA2のように単一の低周波で変調されているわけではなく、かなり広い範囲の低周波数成分を持っていたので、鉱石検波の受信音はブザーのように聞こえたとのことです。
真空管が使われるようになり、CWが一般的になると再生検波やBFOのような仕組みを使わないとA1電波は復調できなくなったことになります。