筆者はあえて自作無線機のファイナルに真空管を使うことがある。
電池管を使った無線機と電池管SSBトランシーバーでは6BQ5を使い、807を使ったCW送信機では807を使っている。3台とも出力は5W以下でA級リニア動作させている。
手持ちの真空管には6BQ5や807以外にも5W程度のファイナルに使えるものがあるのでデータを採ってみることを思いついた。
目的は5W出力のリニア・アンプとしてのデータ採取である。供試用の50MHzGKアンプをバラックで作り真空管を入れ替えてデータを採ることにした。真空管によっては50MHzでは厳しいかもしれないが、そこが面白いところである。
入力はFCZ50を使いステップ・アップしてスワッピング用抵抗1kオームを挿入した。FCZ50の巻き数は1:3であるので50オームでドライブする場合、スワッピング用抵抗は450オームとなるが、入力電力が80mWしかないので、あえて1kオームとした。
出力はタンク回路として6ターン巻き、コールド・エンドの1ターン目から直流カット用のコンデンサーを介して出力を取り出す。50オーム負荷とするとプレート・ロード1.8kオームとなる。
電源電圧は260Vでプレートとスクリーン・グリッドの合計電流を計測する。
手持ちの真空管を探してみたら5763、6BQ5、12BY7A、6CL6が見つかった。
真空管のデータは、NJ7P Tube Database Searchから入手できる。
TUBES | EP | BIAS | アイドル入力電流 | 入力電流 | 出力 |
5763 | 260V | -10V | 45mA | 58mA | 4.8W |
6BQ5 | 260V | -8.5V | 45mA | 60mA | 6W |
12BY7A | 260V | -5V | 25mA | 35mA | 3W |
6CL6 | 260V | -9.2V | 25mA | 53mA | 4.8W |
アイドル入力電流(無信号時入力電流)はそれぞれの真空管の定格損失内になるように設定した。
5763は小型送信管に分類されており、データシートにはC級10Wの使用例がある。6BQ5はオーディオ用であるが、RFでも立派に通用し感度も高いことがわかる。これらの真空管は5W出力ではかなりの余裕がある。
12BY7Aは真空管無線機のドライバーに使われたがファイナルではちょっと荷が重いようである。6CL6もドライバーに使われたがファイナル用としてもかなりの健闘ぶりである。プレートの大きさも5763並であり、損失オーバーとなるがバイアスを浅くすると6Wまで出た。
いずれの真空管も50MHzで問題なく使用できる。
左は6CL6 4.8W出力時のオシロ波形である。
6AQ5と6AR5が出てきた。ただし、正確には左の真空管は6005で6AQ5相当の高信頼管である。
これらは受信管でラジオやステレオの出力管用途であるが、無線機のドライバーやファイナルにもよく使われていた。
TUBES | EP | BIAS | アイドル入力電流 | 入力電流 | 出力 |
6AQ5 | 260V | -18V | 40mA | 54mA | 2.5W |
6AR5 | 260V | -13.8V | 25mA | 41mA | 3W |
80mW入力の条件では6AQ5はバイアスが深くてドライブしにくいようである。出力を欲張らない場合は6AR5の方が使いやすい。オシロで波形を観測したが問題なかった。 いずれの真空管も50MHzで使用できる。
GT管は6CA7、6L6、6V6、2E26、6146である。6L6はいくつかのバージョンがあるがこれは6L6GCである。6146は正確には6146同等パルス用の6293である。その後、メタル管の6AG7を追加した。
TUBES | EP | BIAS | アイドル入力電流 | 入力電流 | 出力 |
6CA7 | 260V | -18.5V | 60mA | 61mA | 0.4W |
6L6 | 260V | -18.3V | 60mA | 64mA | 1.0W |
6V6 | 260V | -15.5V | 45mA | 53mA | 2.5W |
2E26 | 260V | -26.5V | 45mA | 53mA | 4.8W |
6146 | 260V | -54.1V | 60mA | 61mA | 2.5W |
6AG7 | 217V | -10.9V | 22mA | 32mA | 2.5W |
6CA7と6L6は50MHzではちょっと無理があったようで、使うならばもっと低い周波数であろう。
6V6は特性的にはMT管の6AQ5と同等である。入力電流53mAで出力2.5Wと6AQ5と同じになった。
2E26は小型のVHF用送信管で50MHzでは余裕である。6146はもっともポピュラーな小型送信管である。アイドル電流を60mAとするとバイアスが-54.1Vと非常に深くなるが、それでも80mW入力で2.5Wも出ている。
追加した6AG7はメタル管でデータシートによるテレビのビデオアンプ出力段用となっていた。追加実験のため電源電圧は低めの217Vであったがそれでも2.5Wが得られた。
ST管となるとやはり807である。807はCW送信機ですでに使用しているが、これは7MHzと10MHzであり、50MHzで使うのは初めてである。807は戦前からある球でもちろん立派な送信管である。左の写真ではプレート・キャップがみつからず、電線をプレートにガムテープで止めてある。
TUBES | EP | BIAS | アイドル入力電流 | 入力電流 | 出力 |
807 | 260V | -19.7V | 50mA | 53mA | 2.5W |
807の原型は6L6と言われているが、50MHzともなるとさすがに送信管である807の方が優れている。入力が80mWに限定されているため、ドライブが楽なA級動作でデータを採った。左の写真は2.5W時の波形であるが
50MHzでも問題なく使用できることが判る。
実験に使用した真空管は20〜40年以上も前に買ったものがほとんどである。無線機の予備真空管やオーディオに使用するつもりであったが、結果的には死蔵していただけであった。
今回、この実験を思いついてようやく日の目を見たことになる。実験の結果から50MHzまでの5W程度の小出力リニアにお薦めの真空管は5763、6BQ5、6CL6、2E26であろうか。
ところでこれらの真空管は40〜50年以上も前に開発されたものばかりである。しかし、6CA7、6L6、6BQ5のように現在でもオーディオ用として製造されているものもある。それ以外の真空管も市場で容易に入手できる。
実験の応用は5W 真空管リニア・アンプの実験その2でどうぞ。