古典球シングル直結アンプの実験
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プロローグ

「シングル直結アンプの実験」を行ったが、古典球も試してみたくなった。
実は手持ちの古典球には300B、VT52、2A310/VT2545があるが使い切れずにいる。
球の性能を全て引き出そうとすると、プレート電圧が高くなったり、ドライフ電圧も大きくなったりで、それなりに大がかりとなる。
しかし、そのさわりだけに限定すると簡便な構成でOKとなる。6AQ8−古典球の2段直結で 試してみる。

300B編

最初は300Bである。
動作点は特性図とにらめっこしてプレート電圧200V、プレート電流30mAとした。
回路は「シングル直結アンプの実験」で使用した回路とほぼ同じである。
6AQ8300Bをドライブするが、余裕がなくぎりぎりである。簡単な構成にこだわったので 6AQ8へは100kオームの抵抗だけで、デカップリング回路は省いた。
ただし、300Bは交流点火というわけにもいかないので、6.3V巻線をブリッジ整流し、電圧調整用の抵抗を挿入して、DC5Vで点火している。
出力トランスはあえて東栄のT-1200を使用してみた。このトランスと300Bでどのようなデータが得られるか興味のあるところである。
300Bは20年近く前に入手したノーブランドの中国製である。

さすがに300Bである。
プレート電圧200V、プレート電流30mAの慎ましい動作にも関わらず、ノン・クリップ出力は1.6W、DF=3.2となった。

NFBを掛けない状態では5kHzから低下が始まっていた。
NFB量はせめて10kHzまではフラットにしたいということで4.7dBとした。

歪率特性であるが、1kHzよりも100Hzの方が良好となったが、今までのアンプ歪率計測では初めてのことである。
10kHzの特性は1kHz、100Hzよりも良くないが、それでも歪自体は小出力シングル・アンプとしては良い方である。

大昔、6SJ7-300Bの構成でシングル・アンプを作ったことがあるが、300Bに振り回されていた感がある。
それにしても、この球は「CZ-501-D Drive Single-ended Amplifier の実験」でも実感したが、入力容量が大きいので高域が落ちるのが早い。
その実験では出力トランスにタンゴU-808を使用したので、高域の低下が東栄のT-1200の所為ではないと思われる。

10/VT25編

フィラメント用DC電源の電圧ドロップ抵抗を短絡させると7Vとなるので 10/VT25を点灯することができる。
特性図から225V18mAを基準点にすると、出力0.5W程度が見込まれるので、左図のように定電流回路の制限抵抗を70オームに変更し、かさ上げ用抵抗に2kオームを追加し、トータル6kオームとした。
これにより、プレート電圧360V、カソード電圧128V、グリッド電圧113Vとなった。

ノン・クリップ出力は0.45W、DF=3となった。
NFB抵抗は300Bの回路と同じであるが、NFB=5.7dBとなった。

低域は300Bの方が伸びているが、高域は10/VT25の方が優れている。

歪率特性は300Bよりも劣るが、0.1W以下は「コンパチブル・シングル直結アンプ」で計測した6GA4や1626よりも優れている。

10/VT25はすでに、「VT25/VT25A Stereo Amplifier」で使用しているが、この実験の結果から回路を見直すと特性が改善できそうである。
それにしても10/VT25は使いにくい球である。

45編

外付けで2.5Vスイッチング電源からフィラメントに供給すると45を挿すことができる。
動作点は200V25mAとしたので、定電流回路の制限抵抗を51オームに変更し、かさ上げ用抵抗をジャンパーし、トータル5kオームとした。
これにより、プレート電圧360V、カソード電圧149V、グリッド電圧113Vとなった。

ノン・クリップ出力は0.92W、DF=2.8となった。
NFB抵抗は300Bの回路と同じであるが、NFB=4.4dBとなった。

低域の特性は300Bと10/VT25の中間、高域の特性も10/VT25と300Bの中間となった。

歪率特性も300Bと10/VT25の中間といったところであろうか。

フィラメント電圧の2.5Vが用意できれば、今回のような古典球による小出力アンプでは45がベストかもしれない。
スイッチング電源によりフィラメントをDC点火したが、残留雑音は200uV以下となった。

2A3編

動作点を225V30mAとすると出力1.5Wが見込まれる。定電流回路の制限抵抗を44オームに変更し、かさ上げ用抵抗をジャンパーし、トータル4kオームとした。
これにより、プレート電圧361V、カソード電圧151V、グリッド電圧113Vとなった。

ノン・クリップ出力は1.2W、DF=5.6となった。
NFB抵抗は300Bの回路と同じであるが、NFB=5.4dBとなった。

低域の伸びは2A3が一番で、0.125Wでは10Hzまでストレートに伸びている。
そのかわり、高域は5kHzから低下が始まっている。

歪率特性からも余裕で1W超の出力が得られることが判る。

2A3は本当に高域が落ちるのが早い。それが「中域が充実した音」とういう評価につながっているのかも知れない。

VT52編

VT52は不思議な球である。
別名45スペシャルと呼ばれているが、グローブは45よりも大きく、プレートに至っては45の倍もある。
VT52は民生用のナンバーがなく、ネットで探しても特性図を見つけられないが、「VT52.com」にまとまったデータがある。
動作点は「VT52.com」にあった220V29mAをターゲットとし、これによりプレート電圧360V、カソード電圧152V、グリッド電圧113Vとなった。

ノン・クリップ出力は1.1W、DF=4.6となった。
NFB抵抗は300Bの回路と同じであるが、NFB=4.4dBとなった。
45よりもノン・クリップ出力が若干ではあるが増加している。

周波数特性は45よりも広帯域となっている。

どういうわけか1kHz0.7Wまでの歪率は2A3とうりふたつとなった。

実はVT52を使ったのは今回が初めてである。
フィラメント回路を工夫すると300Bとのコンパチブル・アンプが出来そうであるが、残念ながら手持ちのVT52は1本だけである。

エピローグ

結果をまとめると下表となる。
フィラメント電圧を切り替えることができれば、300BとVT52はそのままの定数で挿し換え出来そうである。
45と2A3は「45/2A3 Single Stereo Amplifier」 、10/VT25は「VT25/VT25A Stereo Amplifier」として製作済みなので、やはり300Bに再チャレンジしてみたい。

出力的には300Bと2A3が余裕があり、入力感度も高いことが判る。
45とVT52はやはり特性的に似ているようである。
やはり10/VT25はもっと高いプレート電圧が必要で、200V程度ではかなり無理がある

低域は300B、2A3、VT52が伸びている。
でも、10/VT25でも-3dBで20Hzが確保できている。

低域とのトレードオフで高域は10/VT25が伸びている。
帯域的には全ての球が-3dBで20Hz-30kHzを確保できている。

1kHzの特性は非常に似ているが、VT52の特性が良い。

追補

春日の出力トランス KA-5730を入手したのでT-1200と換装してみた。
使用した球はVT52である。
KA-5730はすでに「8B8シングル直結アンプ」で使用しており、そのコスト・パフォーマンスの良さには注目している。

周波数特性はT-1200よりもワイド・レンジとなり、1W出力時の特性も改善されている。
ただし、100kHz以上にアバレがある。

歪率はT-1200と比較すると10kHzがかなり改善されている。

KA-5730は30mAしか流せないが、今回の実験の目的「古典球のさわりだけを使う」にはぴったりである。
KA-5730の値段はT-1200の2倍以上であるが、それだけの性能を有している。

実験の電源トランスには大昔のタンゴST-130を使用したが、VT-52シングル・ステレオ・アンプに必要な電力を供給できるか試してみた。
もう1本分のVT-52のダミーとしてトータル11kオームの抵抗をB電源に接続し、6.3Vヒーター回路からクリップで別のVT-52のフィラメントに接続した。
この状態で各部の電圧を測定したが、さすがに負荷が重くなったためB電圧は370Vから350Vまで低下した。
しかし、この状態でもプレート電圧200Vは確保できているので、ステレオ・アンプの電源トランスに使用できそうである。

追補その2

300Bでも春日の出力トランス KA-5730へ換装してみた。

周波数特性はT-1200よりもワイド・レンジとなったが、低域はT-1200の方が出ている。
また、100kHz以上にアバレがある。

歪率はT-1200と比較すると全般的に改善されており、特に10kHzの改善が顕著である。

やはり、KA-5730の方が全般的に優秀である。
しかし、値段がKA-5730の1/2以下であるT-1200も良く健闘している。

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Last Update 24/Jul/2011 by mac