FETと真空管を組み合わせたSRPP回路の実験を
行ったが、その結果を実際のアンプに組み込んで検証してみる。
採用する回路は2SK68Aと12BH7Aをカスコード接続し、さらにSRPPとしたものである。
今回もスクラッチから製作するわけではなく、最近、出番のなくなった45/2A3 Single Stereo Amplifierをベースにして改造する。
ドライブ回路であるが、2SK68Aは下側の12BH7Aとカスコード接続されて耐圧を高め、上側の12BH7AとSRPP回路を形成している。
カスコード接続された12BH7Aの動作点は、プレート電圧100V、プレート電流2mAとし、グリッドを接地(0V)することにより、そのバイアス電圧-5Vを、カソードに挿入した2SK68Aのドレイン電圧に転用している。
そのため、使用する双3極管は数mAの電流を深いバイアスで流せることが必要で手持ちの中から12BH7Aを採用した。
その他の手持ちでは5687がプレート電圧100V、プレート電流2mA、バイアス電圧-6Vで使えそうであるが、ヒーターが6.3V0.9Aと大食いなので12BH7Aとなった次第である。
ただし、カスコード用真空管のグリッドにプラスのバイアスを与えれば、カソード電圧を引き上げることができるので、真空管選択の範囲は広がるがバイアス回路が必要となる。
FETは12BH7Aとカスコード接続されているので、ドレイン電流は2mAとなるので、手持ちのあった2SK68AでIDSSが7mAのものを使用したが、2SK30AでもGRランクからIDSSが4mA以上のものを選別すれば同様に使用できる。
2SK30Aの場合、FETのソースに挿入されている抵抗値の変更が必要となると思われる。
出力管は2A3でドライブ段とは直結となっており、フィラメントには計4kオームの抵抗が挿入されており、電圧をかさ上げしている。
通常、この抵抗には並列に電解コンデンサーが接続されるが、本機では信号ループが最短となるように、フィラメントの中点と出力トランスの電源側の間に挿入されている。
ドライブ段電源はFETリップル・フィルターに組み込んだツェナーダイオードで安定化されており、さらに2A3への電源も左右別々のFETリップル・フィルターを経由して供給している。
調整は2SK68Aのソースに挿入した100オームの可変抵抗により、ソース電圧が5.2V程度、上側12BH7Aのカソード電圧が100V程度となるようにする。
うまく調整できない場合は、上側12BH7Aのカソード抵抗、2SK68Aのソース抵抗を加減する。
2A3の動作点は一般的なロード2.5kオーム250V60mAではなく、改造元のアンプが45と共用するために採用した、ロード5kオーム、250V37.5mAある。
入力電圧0.4Vで最大出力となるようNFBは7.1dB掛けてある。
ダンピング・ファクターはDF=9.0である。
周波数特性でフラットな範囲は
0.125W:10Hz-70kHz
0.5W:10Hz-70kHz
1.0W:20Hz-60kHz
となり、かなりワイド・レンジである。
NFBを掛けない状態でのフラットな範囲は
Non NFB 1.0W:40Hz-8kHz
である。
1kHz、10kHz、100Hzの特性が揃っている。
5%時の出力は
1kHzで3.0W
10kHzで3.0W
100Hzで3.0W
となった。
改造元のアンプは45と2A3をそのままで挿し替えられるが、ドライバー段のみを変更した本機でもその機能は残っている。
45を挿して特性を採ったが、各部の電圧は2A3でも45でもほぼ同じとなり、動作点はロード5kオーム、260V39mAである。
NFB用抵抗は1.5kオームのままでNFB=6.5dBとなった。
ダンピング・ファクターはDF=4.9である。
周波数特性でフラットな範囲は
0.125W:10Hz-70kHz
0.5W:50Hz-60kHz
1.0W:50Hz-50kHz
となり、若干ではあるが2A3より狭くなった。
低出力時の10kHzの特性が悪化している。
また、2A3よりも全体的に歪率が高めである。
5%時の出力は
1kHzで1.8W
10kHzで1.7W
100Hzで1.8W
となり、2A3の
半分である。
本機をオーディオ・マニアの知人宅に持ち込んで試聴してみた。
球は2A3を挿したが、
2A3を無帰還で使用すると中域が充実した感じとなるが、本機ではその特徴が薄れてワイド・レンジでダンピングの効いた音となった。
FETと真空管をカスコードに組み合わせ、さらにSRPPとしたため、2A3を低インピーダンスでドライブでき、適度なNFBも掛けることができた結果と思われる。